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【序】
「馬鹿者ォッ!!」
取調室はおろか、廊下にまで響く鉄槌を降り下ろした。
「お前は何を考えてるんだッ。白昼の駅前で堂々と反戦の演説とは。恥を知れ!」
ガタンッ
立て付けの悪い机が悲鳴を上げる。
「若者がお国のために、命を散らして戦っているというのに。何たる不忠か!
お前は我が国の恥だ、汚物だ。生きる価値もない。空気も吸うな!」
「……湊 ~、硝子のハートが傷つくわ」
アァン?誰が硝子のハートだってェ?
笑ってんじゃねェか。口許、悠然と。
「貴様、俺が逮捕しなければどうなっていたと思う?」
「憲兵にパクられて拷問か?」
「正解」
バンッ
緊張感皆無の反戦活動家を前に、盛大に机を叩いた。
「……俺が転属したら、かばえなくなる」
襟元を掴んで、そっと耳朶に声を寄せた。
「ありがとな」
チュッ
不意打ちの唇が、唇に触れた。
チリっと痛みの走った下唇に、指で触れてみる。
「湊……その仕草、色っぽい」
艶やかな黒瞳が戸惑う俺を囚 えている。
「わざとか、お前」
噛みついた唇に笑みを刻む彼
ふらっと消えてはふらっと現れる、この男は新城 昌彦
二つ上の幼馴染みで、反戦活動家
……であり、
俺の恋人……なのか?
「あそこで演説していれば、湊が来てくれると信じていた」
微笑む昌彦に何も言えなくなってしまう俺……仁井田 湊
警官だ。
警官が反戦活動家とつるむのは非常にマズイ。
マズイのだが……
腐れ縁という奴には逆らえない。
チュッ
「なにするっ」
二度目の唇を吸われたのも束の間、再び唇が降りてくる。
歯列を割られて、なぞられて
上顎と下顎を撫でられる。
内側から頬をつつかれて、舌を絡めとられた。
どちらの唾液か、もう分からない……
濃厚な口づけ
「湊のここ、皺寄ってるぞ」
深いキスから、ようやく解放されて。
フラリとよろめいた腰を抱かれると、
コツン
眉間を弾かれた。
ふわり
あたたかな両手の平が、髪を撫でてそっと包んだ。
「湊……」
肩に頬をうずめた俺に、端の掠れた柔らかな声が降ってきた。
「俺と逃避行しないか?」
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