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第198話白猫ヨーイチ1
こちらの閑話は、他サイトにて猫の日用に書いたものです。
(大野語り)
家に帰るとリビングに白い猫がいた。
和菓子屋を営んでいる我が家は、店部分と店舗部分が繋がって行き来が常に可能だ。だから、食べ物を扱っている以上、動物は厳禁である。兄貴が病的なくらいに注意を払っており、うちでは動物を絶対家へ入れない決まりがある。
家族の誰もが周知している事実なのに、何故かリビングに猫が寝ていた。
こたつの側で丸まって寝ている。シュッとした身体に毛並みの良い白色は、美人さんに見えた。女の子だろう、東さんちのカンナに共通する匂いがした。
手を伸ばし猫の背中に触れると、一瞬ビクッとしたが、そのまま気にせず寝ている。拒絶されなかったので、嬉しくなって頭も撫でた。
久しぶりに猫を触りテンションが上がる。
可愛い。毛並みが気持ちいい。
暫くして母さんがやってきた。
「隼人、おかえりなさい。この子、今朝うちの前で寝ていたの。お腹を空かせて真っ黒だったのよ。可哀想だから餌の後にお風呂へ入れたら、そのまま居着いちゃった。人懐こい子なの。だから、可愛くて」
「兄貴は何も言わなかった?」
猫を抱き上げた母さんは、惚けた顔をした。
「うーん。何かは言ってたけど、あまり聞こえなかったわ。でも、明日にはゲートを買ってきて、店側へ行けないようにするし、基本リビングで生活してもらうもの。問題ないわよね、ヨーイチくん?」
「ニャー………」
タイミングよく母さんの腕の中で鳴いた猫は、黄色の瞳で俺をまっすぐ見据えた。
やはり美人さんだ。
「今、猫のこと何て呼んだ?」
「だから、ヨーイチくん。この子、なごみ君に似てない?白くて、綺麗でしょ。人当たりが良いところもそっくり。だから、名前は直ぐ決まった。ヨーイチくん」
「オスなの?ヨーイチって……」
「まぁ失礼ね。立派な男の子よ。付いてまーす」
なごみさんには、和菓子屋『光月庵』を社用で使ってもらっている。社長や役員達の手土産や、御中元、御歳暮等、一年を通じてのお得意様だ。俺が不在の時にもちょくちょく店に顔を出し、その度に母さんと親交を深めていたようだった。だから2人は俺が嫉くくらい仲が良い。
確かに、この猫はなごみさんに似てなくはない。だからって、家族が恋人の名前を呼ぶなんて耐えられないんだけど。
俺が『洋一さん』って呼ぶのは、エッチの時だけって決められている。それ以外は許されてないのだ。
ものすごく悔しい。だけど、抗議ができない。1人で歯痒い思いをかみしめていた。
そんな悶える俺をヨーイチが不思議そうに見ていた。
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