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Side T
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大きな舌打ちの音。ヘラヘラ貼り付けた人相の悪い顔面が無表情になってる。ウサギ小屋からわずかに離れた校舎の壁を殴って鷲宮先輩は去って行った。聞き分けよくない?どういう風に受け取っていいの?もう重恋くんに手、出さないでいてくれるのか?
「おっと観月、今帰り?」
後ろでムカつく声がした。結婚願望の強い姉貴が迫りまくっていつの間にか両親も懐柔して義兄になりかけた胡散臭い先輩。しかも初恋相手の好きな人とかこの人はどうして僕の前に立ちはだかるの。神サマっていねぇわまじ。
「うっせぇ」
鷲宮先輩に冷たくあしらわれてテキトーに笑って、あの人は言いたいコトも言うべきコトも言わないで、言ってほしいコトだけをぺらぺら喋る。
「冷生 ちゃんは帰り?」
鷲宮先輩とすれ違って僕のもとへ来て、それで重恋くんを見つめてる。どういうつもりなのさ?ラスボス気取り?
「親しいんですか、彼と」
「いや~?同じ趣味してるくらいじゃない」
何それ。そうやってはぐらかす。さっきの鷲宮先輩の言ったコトも気になる。キスまで交わしてるの?じゃあ染サンも重恋のこと…。
「知らばっくれるんですか」
「何のことかな。冷生 ちゃんも観月みたいなコト言うのね」
困って笑って姉貴に婚約強いられてる時もそうだったよね。年齢が助けてくれたけど、18歳になってたら結婚してた?
「重恋くんの気持ちはどうなるんですか」
染サンの笑みが一層深くなって、こういう時は相当困らせてる。でも白黒つけたいんだ。敗者の悪足掻き?でも僕は鷲宮先輩とは違うから。
「観月や君が誰を好きでそれが男だろうか何だろうが勝手だけどさ」
笑みが少し和らいだ。何言う気?
「でも俺は勘弁だよ」
染サンの見たこともないくらい怖いカオ。一瞬笑み消えて目が据わった。でもまたすぐ戻る。この人のこういうところがすごく嫌だった。
「じゃあなんでッ!」
「なんで?四角関係とかごめんだからだよ」
僕の知ってる染サンはほんの一部にも満たなかった。いつもの染サン、そういうに目には映ってるけど。
「冷生 ちゃんはどうしたいの。俺にどうしてほしいワケ?俺が朝比奈にコクって付き合えば満足する?」
「…ッどうして重恋くんと向き合わないのか、教えてくださいよ」
なんでいつもみたいに笑わない?へらへらへらへら、あのカレシ並みに一緒にいる男みたいに。全てテキトーに流してます、みたいなカオしないの。なんで傷付いてるみたいなカオするの。染サン、僕のこと今まで甘やかしてたでしょ。
「やめとけよ、男同士だぜ?考え直せって。今の法律じゃ国外行かなきゃ結婚できないし。子どもどうすの?養子取る?周りの目は?子どもいじめられちゃうよ?」
それまじめに本心?染サンってそういう人だっけ?どうしてそんなコトいうの。
「しかも黒人ハーフ。分かってる?注目の的になっちゃうよ。彼に罪はないけど、君の立場とか容姿とか、もっと他人の目とか評価とか気にしろって。君が気にしないって言ったって彼はそうじゃないかもしれない」
やめろよ、軽蔑させないでくれよ。左手を染サンへ振り上げちゃって、マズイなって思った時にはもう遅くて、最悪だった。でもその腕掴まれて、強く握られたまままだ染サンは口、閉じなくて。
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