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第8話

「…………夏の夕暮れってのは、切ないな~、綾瀬~」 「……そう、だなぁ……不和」 元教え子の双子の屋敷から暫らく歩いてから、不和は何でもない様な声で綾瀬に話し掛けた。 綾瀬は綾瀬で、マイペースに不和に答え、並んで歩く。 そして綾瀬は"チラ"と不和の方に視線だけ向けて、彼の様子を盗み見た。 ただ、視線は不和に向けながら、綾瀬はとある記憶を浮上させていた。 ―……初樹はヤられている初葉に自分もシたくて欲情してて、初葉は初樹に見られてるのに発情して、実は初樹にヤられたがってる……って、両想いじゃねぇ? なぁ、綾瀬? 「…………」 そして綾瀬が盗み見た不和は、真っ直ぐ前を向いており、黒い瞳はいつもと変わらない風だった。 「……綾瀬~。……今夜はトコトン飲むかァ?」 綾瀬の視線に気が付いているのかいないのか、不和が相変わらず前を見ながら綾瀬に話し掛けてきた。 「んー…。そうだな、不和。……飲むか」 答えながら、彼の中に『何で、不和は初樹の隠れた気持ちに気が付いたんだ』と言う疑問が浮かび上がってきた。 そして綾瀬はこの疑問を、ここで初めて持った訳ではなく、何度かこれを心中に浮上させ、そのままにして不和には言わないでした。 この質問を不和にする事によって、今度は不和の隠している心に綾瀬が触れてしまいそうだと感じたから、彼は……それを口に出す事をしないと決めてた。 口に出したら、綾瀬も……不和に告げないと、気が済まない事を隠し持っている為、綾瀬は言われた事に対してだけ、不和に答えた。 「ああー。生徒が俺等から卒業してくのは寂しいモンだな~」 「ん? ……まぁ、な……。ははっ……。……不和は……いや、何でもない」 決めたのに、零れそうになった言葉を綾瀬は内心、慌てて終わりにした。 実は気になってしょうがないのだと……。心中で頭を地面部に打ち付けた。 しかし、不和は少し気に掛けた様だが、サラリと流して来た。 「……ん? そうか?」 「ああ」 そう言いながら、綾瀬は不和を見るのを止めて、前を向いた。そして…… 「何でもない」 少し、硬質な声で話しを終わりにした。 それぞれの胸の内にどんな音が、そこに響いているのか…… それは、誰にも…… …………分からない。

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