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声
「俺のことは奏 って呼んでくれていいから」
今日は母が再婚相手の男性とその息子を夕食に招待していた。
両親が再婚することになり、これから義弟になる蒼馬 に俺は言った。言い方は少し無愛想だったかもしれない。
食後は子供同士で交流を、と母に言われ俺の部屋に招いたはいいが、蒼馬はずっと無言で俺を見ている。
しびれを切らして、さっきの発言がある。コイツに義兄さんなんて呼ばれるのも、なんか嫌だし。
蒼馬とは同じ高校で、学年は彼がひとつ下だ。自分で言うのもなんだが、俺は絵に描いたような優等生で生徒会の副会長も務めている。
対する蒼馬は問題児で、いわゆる不良と呼ばれる生徒だ。母の再婚相手は俺の影響で蒼馬が更生してくれることを期待してるみたいだが。
まともに話すどころか、声すら聞いたこともないのに? 仲良くなんてできるんだろうか。今も無言で俺を睨みつけているし……
身長は軽く180を超えていて、逞しい体つきに男らしい整った顔立ちの蒼馬の眼差しは迫力がある。
気に入らないならさっさと出て行くなり、家に帰るなりしてくれないかな。奏が少し苛立ちを覚えたとき
「……声、エロいっすね」
「……は?」
それが初めて聞いた蒼馬の声だった。
「奏のことは学校で見たことあるけど、そんなエロい声してたんだ」
「……バカにしてんのか?」
やっぱりコイツとは仲良くなれない。母さん、義理の父になる剛さん、ゴメン。
そんなことを考えていたら、蒼馬の手がふいに伸びてきて、Tシャツ越しに乳首をぎゅっと摘まんできた。
「あッ!」
びっくりした! なんだコイツ!! 男の乳首なんかつまんで何やってんだ!?
意味不明すぎて、口をパクパクさせてる俺に蒼馬が囁いた。
「……ほら、エロい声してる」
低くて、男らしい声。ゾクリ……と腰にクル声。
蒼馬は俺をじっと見ている。視線を絡ませ、俺も目が離せないでいた。
俺は蒼馬のことは学校で、遠くから見たことはあった。
でも、声は今……初めて聞いた。
end.
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