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*
久しぶりの白柳さんの家だ。半年ぶりくらい。家に入ると、ああ、白柳さんの匂いがするなあと懐かしい気分になる。
ここにくると、胸のなかがふわふわとして、それでいて締め付けられるような痛みも感じて、落ち着かない気持ちになったものだ。なので、俺はここに寄りつかなくなった。それが半年前のこと。改めてここにくると、やはりあの感覚が心のなかを支配する。けれど、それは嫌な感じではなく、凪に揺れる海のようなゆるやかな心地だった。
しかし。
「――っ!」
ぎゅ、と後ろから抱きしめられる。
凪? うそうそ、これじゃあ暴風だ。いきなりそんなことをされたら、しかもこの朴念仁先生にやられたら、心臓がバクバクしてしまう。
「しっ……白柳さん……?」
「悪ぃ、情緒がねえのは自覚してるんだが……」
「あっ……」
ちゅ、と首筋を吸われて俺は思わず声をあげてしまった。
ここに来たら抱かれるんだろうな、とはわかっていたし、俺だってしたかった。けれど、今の俺は妙に緊張してしまっている。
なんでだ。なんで俺はこんなにドキドキしているんだろう。
「まっ……待って待って、白柳さん……! あのっ……一旦、お風呂……とか……」
「すまん、無理」
「あのっ……」
声がひっくり返るし、掠れるし、俺、かっこ悪い。調子が狂う。
セックスなんて人生何度目だかわからないし、緊張なんて遙か彼方の昔に置いてきたのに、体全体が心臓になったように激しく胸が高鳴っている。自分の体の脈動が感じられるほどのそれは、体感したことのない不思議な感覚。
手を掴まれ、引きずられるようにベッドに押し倒されて、それはもう鮮やかなお手並みで。白柳さんはシーツに手をついて、仰向けになった俺を見下ろす。なんだか彼と目を合わせられなくて、つい視線をきょろきょろとあっちこっちに動かしてしまうけれど、「セラ」と呼ばれて、ふと彼のほうへ視線をやってしまった。
――うわ。
余裕のない顔。色んなものがこみあげているような、そんな表情。どことなく泣きそうな目。珍しい白柳さんの表情に、かあーっと顔が熱くなるのを感じる。
「――やっと、……やっと、俺の傍にいてくれるんだな、セラ」
「……、はい」
……ああ、そうか。
俺は、初めて恋人とセックスをするんだ。
だからこんなに緊張しているのか。
簡単すぎる間抜けな返事をした俺に、白柳さんが困ったような笑顔を向ける。そして、そっとキスをしてきた。
キスだけでも、すごくドキドキする。キスのやり方が頭から吹っ飛んでしまうくらいに。
彼の頭を包み込むように後頭部に手を添えて、やわやわと彼の髪を撫でてみる。舌を撫で合うようにゆるく絡めて、お互いの呼吸を感じ合う。それだけなのに、頭は真っ白、とろけるように気持ちいい。ずっとこうしていたい……と思うのに、どんどん体は熱くなっていて物足りなくなってくる。
「あ……、ぁ……」
自分が昇りつめてゆくのがわかる。温かな波が体の中をゆっくりと昇っていき、それに合わせて俺の体がのけぞってゆく。
気持ちいい。こんなに気持ちいいキス、初めてだ。
「あ――……」
ふわ、と視界に白い火花が散るような。そのあとで、ちかちかと炭酸がはじけるような。温かく、静かな閃光に俺の体が貫かれる。
「あ……」
いまの……もしかして、俺、イッたのかな。いつもとは違う絶頂に、不思議な多幸感を感じる。体がガクガクするような気持ちよさじゃなくて、ふわっと飛ぶような柔らかい気持ちよさ。じわじわと全身に幸せがしみこんでいくような余韻。
俺、キスでいっちゃった。
「し……しらやなぎさん……」
「ん……?」
「き、キス……もっと……いっぱいして……」
「……可愛い、セラ」
つい、彼に甘えてしまえば、彼は嬉しそうに笑った。けれど、俺はそんなことを言っておきながら、体も触って欲しくて仕方ない。たまらず腰を揺らしてしまって、もちろんそれは白柳さんに気付かれた。
白柳さんはニッと笑って、俺にキスをする。そして、キスをしたまま俺の服の中に手を入れてきた。下腹部を擦り合わせながら、腰や背中を手のひらでゆっくりと撫でられる。俺は彼の背に手を回して、ゆるく体を揺らしていた。もどかしい快楽がじわじわと迫ってくるなか、たっぷりとしたキスを続けていると、本当に、本当に幸せな気分になる。
「あ……、ぁん……あっ……ぁ……」
「は、……はぁ……」
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