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番外編:上司逆転ごっこ
「どういうことなのか俺様に向かって、分かるように詳しく説明してみろ」
いつものように、江藤のデスクの前に小さくなって佇む宮本。年末の決算期を抱えている会計課の部署に、殺伐とした空気が流れた。
そんな空気を肌でひしひしと感じながら、江藤は頭の中で考える。
(年末決算を控えるこのクソ忙しい時期に、部下の宮本に時間を割いてる暇は正直言ってまったくない。だけどこれでも……こんな出来の悪すぎるヤツでも一応、俺様の恋人なんだから、手をかけないワケにはいかないんだよな)
やれば出来るヤツだって、頭の中では分かっているのだから――
「えっと、そういうこと……みたいな」
後頭部をばりばり掻きながら、薄ら笑いを浮かべてわけの分からない説明する宮本の態度に、一気にボルテージが上がってしまった。
「あ゛あ゛!? お前は常識がないのか? 説明しろと言ってる傍から、ワケの分からないことを口にすんなよ!」
「だって江藤先輩の顔、般若みたくなってて、すっげぇ怖い」
(誰が俺様のことを、般若にしてると思ってるんだ!)
江藤のイライラ度マックスレベル到達まで、あと少し。
そんな怒りを押し殺し、理解するまで指導してやろうと江藤が口を開きかけたら、持っていた書類をさっと裏返した、ちょっとニヤけ顔の宮本。
そこにあったものは――
『江藤さん大好き。世界で一番愛してる!!!』
なぁんてこれでもかとデカい上に、めちゃくちゃ汚い字で書かれている内容を読み、仏像のように江藤は固まった。
(せっかくの愛の告白文だというのに、俺様以外の人間がこれを見せられたとしたら、百年の恋も一気に冷めるだろうな)
他の社員に背を向けて、それを掲げているから見られはしないだろうが、このアブナイことを書いてる書類をシュレッターにかけるという、気の利いたことを宮本がするはずがないと瞬時に判断し、顔を引きつらせながら書類を引っ手繰った。
手にした書類を江藤が握りしめて無きものにすると、また違う書類を見せてきた。
『ねぇ名前で呼びたい。ふたりきりのときくらい、いいでしょ? 正晴さんって呼びたいんだよ♡』
「お前、今は仕事中だぞ。デカい顔して、プライベートなことをさりげなくお願いすんな。コラ!!」
うんと眉根を寄せ低い声で脅しながら、勢いよく書類を引っ手繰った。何を一人前なことを堂々と強請ってんだと、内心呆れ果てた江藤が再び手にした書類を握りしめる。
「だって江藤先輩の顔が怖すぎて、直接頼めないから文字にしてみました、みたいな?」
「ふざけるな! そんな暇があるなら、さっさと仕事しろ! 残業決定だからな!!」
「本当!? ワァ──ヽ(〃v〃)ノ──イ!!」
かくて宮本の作戦にはめられたことも知らず、一緒に残業することになった江藤。一体、どうなっちゃうのでしょうか?
宮本目線に続く(´∀`)
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