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レクチャーⅠ:どうして、そうなる!?4
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「宮本さ、わざと江藤先輩の気を引いてるだろ? そうとしか思えねぇよ、おまえの行動を見てるとさ」
昼休み社食にて隣の席にいる同期の渡辺と話をしながら、せっせと食事をしていた。せっかくの昼食が愉しくない内容の会話のせいで、実においしくない。
「わざとじゃねぇし。あのさ昼飯くらい、アイツの話題を出すの止めてくれないか。マジで勘弁してくれよって感じ……」
「分かってるけどさ。俺をはじめ他のヤツらは有難がってるんだぞ。宮本が身代わりになってくれるお蔭で、仕事がすいすい捗るってさ」
「俺が身代わりって、何だよそれ?」
じと目をして箸を口にくわえたまま心底嫌そうな顔をする宮本を、渡辺がなぜか両手を合わせて拝みながら語りだす。
「宮本が叱られてる間に、自分の仕事の見直しができるワケなんだよ。ちょっとでもミスったら、あんな風に叱られる。ダブルチェックして完璧に仕上げよう! っていう感じで仕事に対する意識も高まるんだ、おまえのお蔭でさ。だからウチの部署の仕事のクオリティが高いと、よその部署でうわさになってる」
「そのうわさ話、俺は褒められてるの? それとも、けなされてるのか?」
宮本は眉根を寄せて、社食のメインであるハンバーグに箸を突き刺しながら隣を見ると、意味深なにやけ笑いを口元に浮かべた。
「宮本が江藤先輩に構ってほしくて、わざと気に障ることを言ってるだろうとうわさになってるだけ」
「ブッ!」
飲み込もうとしたハンバーグが逆流しかけた宮本が苦しそうに目を白黒させたのを見て、渡辺が慌ててコップに入ったお茶を手渡す。それを一気に飲み干し、難を逃れた。
「ありがと、助かった……。あのさ、そのうわさ話をしているのは、一体どこからなんだよ?」
呆れ果てた問いかけに渡辺は苦笑いして小首をかしげつつ、両腕をW型にする。
「俺は加藤先輩からリークされたから、多分そこら辺じゃないか。たかがうわさ話なんだし、気にすることないって。……って言ってるそばから、何しやがる!?」
宮本は何食わぬ顔でまっすぐ前を見たまま、手にした七味唐辛子を渡辺が食べていたきつねうどんに、これでもかと投入した。
「まずは手身近に、おまえから報復してやる。たかがうわさ話でもすっごく気になるし、こう見えて繊細なんだ。うわさしてる連中全員に、しっかり復讐したい気分!!」
「宮本、恐ろしい男……」
ヒーヒー言ってうどんをすする渡辺を見ながら、ぼんやりと考えた。江藤さんと昔のようなやり取りがしたいだけなんだよなぁと。
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