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レクチャーⅡ:どうして、こうなる!?6
「7年ぶりか、懐かしいな。雅輝と別れてからおまえとも逢わなかったし、ちょっと気にしていたんだ」
江藤は寂しそうに口元だけで笑って、窓辺に視線を移す。窓の外は華やかなネオンの光が、キラキラと瞬いていた。
「気にしていたんだ、一応」
「気にするに決まってるだろ。後にも先にもあの件で俺様の泣き顔を見たのは、おまえだけだからな」
その言葉に、胸の奥がきゅっとしなった。兄貴の前では最後まで意地を張って、強がってみせたことに切なさを感じた。
「素直じゃないから嫌われたんだよ、まったく。兄貴の前で泣いたら、少しは同情して」
「同情されるくらいなら、捨てられた方がマシだ! 何も知らないクセして、余計なこと言ってんじゃねぇよ」
「すんません……」
意気消沈しながら俯くと、手にしていたかにせんの袋を開けてボリボリと食べる音が聞こえてきた。
「……雅輝は、元気にしてるのか?」
いつもよりも低い声で告げることを訝しく思い、窺うように江藤をそっと見た。さっきと同じ顔つきで窓の外を見ていたので、何を考えているのかは分からない。だけどそこに漂う空気みたいなものが、いつもと違う気がした。
――7年もたってるのに、兄貴のことがまだ好きなんだろうか?
(江藤さんに逢えなくなってしばらくしてから、自分の想いを心の奥底に良い思い出として蓋を閉じた。もう二度と逢うことはない、そう思っていたから……)
「兄貴とは同じ市内に住んでるんだけど、お互い忙しくて連絡取ってなくて。多分、元気なんじゃないかな」
「そうか」
静まる部署に、お菓子を食べる音だけが響き渡る。
「おい……」
「何ですか?」
「今度はポッチーも用意しておけ。俺様のためにな」
「はい?」
命令してきた言葉に顔を引きつらせると、窓から視線を移して宮本を見つめながら自分の頭に指差した。
「甘い物がないと頭がうまく働かん。無駄なことで、ぐるぐるするからな。あとは、うんまい棒のコンポタ味の方が好きだ」
おいおい、何の命令だよ。はっきり言ってパワハラだろ。やっぱりこの人、面倒くさい。めちゃくちゃ扱いづらい。
「そんなのご自分で用意してくださいよ。俺はお菓子屋じゃねぇし」
「上司命令だ、コラ。とっとと仕事しろ!!」
どういうことなんだよ、もう。自分の権力を今、ここぞとばかりに振りかざすって、どうよ?
「そういうことだ、諦めて仕事しろ。ノロマ」
まるで宮本の心の内を読んだかのような発言をして、自分の席に着いた江藤。
「俺様のコーヒーに毒を持ったら、ぶっ殺すからな」
ボソリと告げたその言葉――江藤に叱られたあとに計画した襲撃のことを口にされ、宮本を震え上がらせたのだった。
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