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―――
――……
鍵は開いたわ
私は空を飛んで私の歌を歌うのよ
貴方の声が聞こえたら
私は貴方に空の香りを届けにいくわ
「俺はぶっちゃけ悪趣味だと思うけどね」
「どうして?」
「このオペラは女が演じる演目だろ。確かにアイツはあの格好も似合っているけどよ、それが余計に……不気味で見ちゃいけないものを見ている気分になる」
まだ年端もいかない少年がくるくると優美な衣装を着て踊っている。あまりに美しく、儚く、そしておぞましいそのステージに観客は熱狂する。自分の性と意思を奪われた虚ろげな瞳が禁忌を思わせ、狂ったようにその踊りに魅入られるのだ。
「たしかに、あの子は醜い」
「いや、俺は醜いとは思わないけど……」
「もしもあの子がこの踊りに魂を賭けているのなら、きっと私は美しいと思うのでしょう。でも、あの子は違う。自分のしていることが何であるか理解していない。自分自身の存在に答えを見い出せていない」
青いリボンがひらひらと宙を踊る。華美な髪飾りは照明を受けてきらきらと輝いている。そんな光の粒が、まるで少年自身の残像のようだった。
「私はあの子をワイルディングの子とは認めない」
「……つーかそれ以前にアイツ水の天使じゃん。その時点でアイツは家紋に泥を塗っているんだよ」
少年の演舞に圧倒される観客達の後ろで小さな声で話しているのは、少年の兄弟であった。少年を見つめる目付きは冷たく、恐らくは家族を見る目とは言い難い。
「つーか。姉さん、知ってる? アイツ演技が終わったあとにさ、いつも……」
「知りません。知りたくもない」
「やっぱ知ってるんでしょ。薄気味悪いよな、あの年で体で客とってるとか。俺知んねーけどさ、あの年で勃つもんなのかね」
「……やめなさい、レイ。こんな場所で下品です」
じろりと弟を睨み付ける女。髪を一つに結い、剣士を思わせる格好をし、腕組みをしている。
彼女の名はアザレアといった。ワイルディング家の長女であり、歴代最高の剣士と謳われている。息を飲むような美しい顔立ちも、戦うことに生きた彼女にとってはなんの意味もなさなかった。化粧っ気はなく、着飾ることもなく。
しかし、彼女をみた誰もが彼女を美しいという。
「もしそれにあの子が喜びを見い出せているなら私はなにも思わない」
「は? 姉さんが? あのクソビッチをみてなんにも思わないって? 嘘付け! 堅物のくせに!」
「あの子がいいと思ったならそれでいいの。自分が自分を正しいと自信を持って言えるなら、それは例えどんなことだって……美しいはずだから」
彼女は瞳が美しいと。強い意思を抱いたその目が、眩いのだと。
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