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*** 「どうした、アザレア。浮かない顔をして」 「……エリス様」  中心街の待ち合わせ場所として有名な銅像の前。そこで夜風にあたりながら頭を冷やしていたアザレアに声をかけてきたのは、アザレアが護衛を務めるレッドフォード家の長男、エリスであった。急いできたのか僅か乱れた少し長めの髪に、アザレアは少しだけ笑う。 「悪い、女性を待たせるなんて男失格だ」 「……いいえ。私は今日、あなたに会えるだけでも嬉しいです」 「お、おう……そうか」  エリスがふい、と目をそらす。そんなエリスの様子に、アザレアはぱっと自分の服装を確認した。髪をおろしてきたのは良いが、結った跡がついていたりしないだろうか。カーディガンに皺などかついていたりしないだろうか。スカートがめくれていたりしないだろうか。 「あ、アザレア」 「はい」 「い、いつものアザレアも……その、いいけどよ、今日は……い、一段と……き、綺麗だな!」  ほんの少しだけ顔を紅くしながらエリスは言う。そんな彼がおかしくて、嬉しくて、アザレアはくすくすと笑った。今、二人がこうして会っているのは、所謂デートというものであった。普段、常にアザレアはエリスと行動し、一緒にいるのだが、あくまでそれは仕事上の付き合い。必要以上に会話をしたりもしないし、触れ合いだってない。それでも、お互いにプライベートで会いたいと思うほどには好意を抱いていた。今までも何回か、こうしてデートをしているのである。  昼のあの思い出したくもないオペラの鑑賞が終わり、なんとか気持ちを切り替えようと思っていたのだが、どうやら表情にでていたようである。エリスに出会い頭に見抜かれてしまった。アザレアは軽く息をすってエリスに笑いかける。 「……エリス様の私服姿も、とても素敵ですよ」 「え、あ、マジか!? あ、いや、うん。ありがとう」 「――ふふ、行きましよう。あまり時間がありませんから」  エリスはアザレアの前では貴族らしい毅然とした態度をとっているが、時々素がでてしまうことがある。アザレアはそんなエリスのことも、好きだった。もっと出してくれてもいいのに、と思いつつそれは言わないでおこうとする。それが、彼が自分に対する接し方なのだと決めたのなら、それを変えて欲しいなんて言ってしまったら彼のプライドを傷つけるだろう。  ちょっとだけ不器用なエリスの態度に、アザレアは口元を隠して微笑む。しかし、エリスが黙って手を差し出してきたから、その手をとって、彼の顔をちゃんと見て。アザレアはにっこりと笑った。

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