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*** ―――― ―― …… 「ようようお二人さん、大変な知らせだ」 「はい?」  書斎にて仕事(と称してイチャイチャ)をしていたハルとラズワードのもとに、エリスが不機嫌そうな顔で割ってはいってくる。ぽかんとした顔をするハルの目の前につきつけられたのは、一枚の紙。 「『ハル・ボイトラー・レッドフォードをレグルスの選手に任命する』……え、なんで?」 「あれ……たしかレグルスって……」  ハルが読み上げた文章を聞いて、ラズワードは以前エリスにきいた「レグルス」についての情報を思い出す。「マグニフィカト」という祭りの中のメインイベント、「レグルス」。ハンターの中で業績の良かった上位二名が矛を交え、勝者はなんでも手に入れることができるというものだ。 「相手はまあ案の定マクファーレン家のレヴィだぞ、死んでも負けるなよ。俺達の財産からなに取り上げられるかわかんねぇ」 「ちょ、ちょっと待って兄さん、俺ハンター業は全然点数稼いでいないはずだけど!? なんで任命されているの」 「バカかおまえ、こいつのせいだろ」  はあ、と溜息をついてエリスはラズワードの着ているジャケットをめくる。そして、内ポケットに入っていたライセンスをとりだした。 「ラズワードに自分のライセンスを貸してハンター業代行させていたんだろ、ラズワードが稼いだ点数がそのままおまえの点数になっているんだよ」 「……んなバカな」  ラズワードが強いからといってランクの高い魔獣ばっかり駆らせていたツケがここに……と、ハルは頭を抱えた。考えてみればわかることだが、自分の成績として点数が加算されるとは思っていなかったのだ。不正というわけではないのだが従者に代理をさせていたと大々的に宣言するのもなんとなく恥ずかしいため、レグルスにはハル自身が参加しなければいけない。 「ど、どうしよう……レヴィだろ、あのなんか最近イケイケの奴」 「ほんとおまえ絶対勝てよ、コレ以上アイツを調子にのらせるな」 「む、無理だよー……俺ハンターだってもはや現役じゃないし……」 「……そんなおまえにやる気のでる情報を教えてやろうか」  エリスはうなだれるハルのようすにどこか苛立ち気に言う。ちらりとラズワードをみたかと思うと、そっとハルの耳元に口を寄せた。 「アイツが狙っているのはもしかしたらラズワードかもしれない」 「えっ!?」  ガタッとハルは立ち上がる。びっくりした様子のラズワードに体当たりする勢いで抱きつくと、慌てたように叫んだ。 「な、ななな何を根拠に!!!!!!!!!!!!!! たしかにラズは可愛い綺麗美しい誰でも欲しいって思うのはわかるでもしかしラズは俺のものであって」 「ラズワードも覚えているだろ、レヴィの野郎がおまえを勧誘してきたこと」 「あ、」  以前レヴィに会った際、「俺と、新しい世界を作ろうぜ」、そんな文句で誘われたのをラズワードは思い出す。マクファーレン家のものになれと、そう言われた。レヴィはハルのような想いで自分を欲しがっていたわけではないとわかってはいるが、この情報を使わない手はない。自分の主に、大衆の面前で敗北を晒してほしくない。  ラズワードはハルに向き直すと、わざとらしく切なげに目を細めて囁く。 「ハル様……俺は、ずっとハル様のお側にいたいんです……どうか、どうか勝利をおさめていただけませんか」 「ら、ラズ……俺も……俺もずっとおまえの側にいたい」 「では特訓しましょう」 「んんんッ!?」  がらっと態度を変えてにっこりと笑ったラズワードにハルは驚いて素っ頓狂な声をだす。エリスが後ろのほうで「尻にしかれている……」と言ったのは聞こえていないようだ。 「ハルさまは最近デスクワークが基本でしょう、体が鈍っているんじゃありませんか? さあ俺と一緒に戦闘訓練を!」 「ちょ、ちょちょちょちょちょい待って! 無理俺ラズ相手に本気だせないから訓練にならない」 「ご心配なく! 俺は治癒魔術使えるので何されても平気ですよ、殺す気できてください」 「無理! 絶対無理! ラズが一瞬でも痛がっているところみたくない!」 「……まあハル様が俺に攻撃を当てられるかはわからないですけど」 「ああ!?」  ラズワードの挑発に呆気無くのったハルは、部屋の片隅にかけてあった武器を持ちだした。顔に「チョロい」という文字を浮かべながらラズワードは微笑んで、パッとハルに背を向ける。 「じゃあ、早速外に行きましょう! ここでは狭いですからね」 「おうひいひい言わしてやるよ!」 「どうぞ、やれるものなら」  慌ただしく二人が出て行った扉を、エリスはポカンと見つめていた。 「……あいつらアホなの?」

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