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*** 「次がラストですね。すごいですね、ここまでほとんど点差なしです」 「今日の俺は運がいいのかもしれません」 「いやあ、逆じゃないですか。俺はいつも面倒な目にあっているから、運がある人間なんかじゃないですし。俺が今日、たまたま運がいいのかも」  なんどかルーレットを回して、次が最後というところまでやってきた。ここまでの結果は、ほんの僅かな差でハルが上回っている。しかし、勝負をわけるのは次の一投になるだろう。次で当てたほうが、この勝負の勝者となる。  黒はふっと笑って、頬杖をつく。ひとつひとつの仕草が、黒は綺麗だ。ちらりと綺麗な黒い瞳で見つめられて、ハルも思わず緊張してしまう。 「黒さん。次は、黒さんが選ぶ番です。どちらを選びますか?」 「俺がどっちを選ぶかで勝敗が決まっちゃうんですね。ちょっとどきどきします」  黒の瞳が、レイアウトを見つめる。ROUGE、NOIR、それぞれに視線を漂わせて、またちらりとハルを見る。 「そうそう、俺、ハルさんの髪の色好きですよ」 「なんです、藪から棒に」 「いかにもレッドフォード家といった感じで。炎の天使、ミカエルの血をしっかりと受け継いでいるんだなって思います。赤い髪、素敵ですよ」 「ちょ、急に褒められても、」 「そんなわけで、ハルさんがルージュで」 「そういう決め方ですか!?」  ハルは褒められた髪の毛を照れながら弄り、黒の瞳を覗く。  その決め方でいけば、黒はもう片方。珍しい漆黒の髪の色、瞳の色――まさに彼は、 「そして俺が――ノワールです」 「……」  彼の口から発せられた、その色に似つかわしい。彼の口からでてきたその色の名前は、あまりにも彼の声色に馴染んでいる。 「貴方と俺、このブルーの玉はどちらを選ぶんでしょう」 「……」  妙な、既視感を覚えた。彼の声で、その「名前」が紡がれたことに。しかし、それが一体なんなのか、ハルは思い出せなかった。  ディーラーが玉を持ち上げる。二人の視線が、ブルーの玉に注がれる。  なぜが、負けたくないと思った。賭け事に興味はないし、このルーレットなんてただの遊びなのに、ハルは次の一投だけは負けたくないと思ってしまった。 「……俺が勝ちます」 「ええ、そうでありますように。ブルーの玉がノワールのもとへ落ないように、祈っていてください。ハルさん」

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