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***  学校を出てきた沙良は、数歩歩いてはため息をつく、という行為を繰り返していた。一度思い出してしまってはなかなか振りきれない。あのとろとろに蕩けた波折の顔が、ずっと頭のなかに浮かんでいる。ああ、波折とエッチしたい。好きなんだからエッチしたいって考えるのは自然だ、そう思っても罪悪感は拭えない。本当はさみしがりやで、友達が欲しいのになぜか作れずにいる、そんな彼といやらしいことをしたいなんて考えていると、良心が痛む。優しくしなきゃ。波折とは、少しずつ距離をつめていって、彼の救いになりたい。 「……波折先輩……あー……好きだー……」  ため息と一緒に心のなかに溢れる想いを吐き出したとき。耳元で、不自然な音が聞こえた。普通に生活していてはまず聞くことのない、人工的な甲高い音。なんだ……そう思って音がした方をみた瞬間。 「えっ」  なにもないところから突然、腕だけが生えてきて、それが沙良の手を掴む。ぎょっとして混乱してしまった沙良は何も抵抗ができずに、そのまま腕にひっぱられた。視界がぶれてブロックノイズがかかる。 ――魔術だ  そう気付いたが、遅い。沙良はそのまま腕に引き寄せられ……消えてしまった。

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