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「波折!」
沙良がどんよりとしながら生徒会室にはいると、可織の声が真っ先に耳に入って来た。可織は会長席に座る波折の前に立って、スマートフォンをかざしながら彼に詰め寄っている。
「生徒たちの間で波折と鑓水が付き合ってるって噂になってるんですけど? べつに恋愛は自由ですけど、あなた、自分の立場理解してる? 生徒たちの羨望の的、それが同性と、しかも副会長とこんなおおっぴらに!」
「ま、待てって可織……それは事実じゃない、俺と慧太はそんな関係じゃないから」
「じゃあどんな関係? ちょっと距離が近いなんてこと仲がよければありえるとしても、手まで繋ぐ?」
「え、えーっと……ほんと、なんでもないから。手を繋いでるのはノリだってば」
「ふうん、別にいいけど。あんまり生徒たちを混乱させないでよね」
可織はしつこく問い詰めることもなく、波折から離れていって自分の席につく。波折が「参った」という顔をしているものだから本当の事情を聞いてみようと沙良が彼に近づいていった時だ。ガラッと扉が開いて鑓水がはいってくる。
「ごめん波折ー、しばらくおまえのうち泊めて! 学園祭近くて帰る時間クラスのやつと合わないからさー」
生徒会室の雰囲気が凍りついたのも気にせず、鑓水は机に鞄を置いてあくびをしている。沙良があわあわとして鑓水に近づいていけば、鑓水はとん、と沙良の肩に手をおいて耳元で囁いた。
「ごめん、しばらく波折はおまえにやれないや」
「……んなっ」
強引に思える手段で波折との距離を詰めていっている鑓水を羨ましいと、沙良は思ってしまった。鑓水のように付き合っていない時点でセックスをしたりするというのはどうにも沙良の信念に反するから同じようなことはできないと、そう思うけれど……今は、絶対に彼のほうが波折との距離が近い。だからといって波折にグイグイと強引に迫る気にもなれない。やっぱり自分は波折にはふさわしくないのかな、なんて思ってしまって、沙良はひどく落ち込みながら自分の席についた。
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