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***  降り積もったばかりの雪の上を、静かに歩いてゆく。まだ薄い層だけれど、たしかに自分の足あとはついてしまう。綺麗なまっしろが、自分の足で汚くなってしまうのをもったいないと、棗は思ってまた一歩、歩く。  鑓水に振られて、本当に悲しかった。周りに人がいないのをいいことに、涙を流しながら家までの道を歩く。  キスが、優しかった。思い出すだけで、切なくなる。あの人に愛された人は、あんなキスをいっぱいしてもらえるんだ、と思うと羨ましくて仕方なかった。 「――棗ちゃん」 「……?」  ふいに名前を呼ばれて、振り向く。そこに立っていたのは何度か見たことのある人物だった。体よりも少し大きなコートをきて、ボサボサとした黒髪をしていて。暗い瞳が自分を映している。 「……けいちゃんの、お兄さん、ですよね?」  彼は鑓水慧太の兄・(すず)だった。彼は貼り付けたような笑みをたたえて、棗に近づいてゆく。 「――慧太と、家族になりたい?」

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