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全身が焼けつくように痛い。鈍痛に顔をしかめ、鑓水は意識を取り戻す。錫の使った魔術が直撃したせいか、背中から血が出ているようだ。まともに魔術を学んでいない錫の魔術は幼稚なもので致命傷には至らなかったが、普通の怪我よりはずっと痛い。鑓水はなんとか体を起こし、辺りを見渡す。
「……波折?」
すぐに気付いたのは、波折がいないということだった。錫に連れて行かれたのだと気付いた鑓水は、絶望に囚われる。いったいどこに連れて行かれたのだろう、周囲は小さな建物が密集していて、どこに錫が行ったのか検討もつかない。早くしなければ、波折が危ない――そう思って鑓水がガクリとうなだれたとき。
「……?」
妙な音がきこえた。自然の中に存在するような音ではない、人工的で耳障りな音。顔をあげれば、半透明の人型をした影が自分の前に立っている。魔術で作られた傀儡だ、と鑓水は気付いたがその傀儡からは殺気のようなものを感じない。傀儡は顔に当たる部分を動かし鑓水を見下ろして……す、と手を差し伸べてくる。
「……つかめって?」
「――ソウダヨ」
「……おまえは、波折の場所を知ってるのか」
「シッテルヨ」
罠? そう思ったが、錫がこのような高度な魔術を使えるとは思えない。なにより、一人でなにもしないでうずくまっていたところで、波折を見つけられるとは思えない。
鑓水は軽く深呼吸をすると、唇を噛み、恐る恐る――傀儡の手を、掴んだ。
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