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 町に向かうために、二人は電車に乗った。休日の電車は昼が近くなったこの時間でも混んでいる。しかし座るスペースはあったため、二人はそこに腰掛けた。 (……お、)  鑓水は前に座っていた女子のグループの視線に気づく。鑓水たちと同じくらいの歳の女子だろう、二人をみてひそひそと顔を赤らめながら話していた。あらかた波折をみてはしゃいでいるんだろうな、と鑓水は内心苦笑いだ。当の本人は視線に気付いているのかいないのか、ツンとすましている。 (……ほんと、人前だと別人)  ふたりきりでいるときとは全く違う、それこそ「王子様」のような波折の顔。甘えをみせるようなことは一切しない。そういったところも、またいいのだが。こいつの本当の姿を知っているのはほんの一握の人間だけ、といった優越感に浸ることもできる。……それに。 「んっ……、」  鑓水はこっそりローターのスイッチをいれる。そうすれば波折がぴく、と片眉を動かしてみじろいだ。微かに呼吸のリズムが変わる。  ――服の中にはいやらしい下着、そしてオモチャを仕込んでいる。こんなふうにすましているイケメンが、とんでもない変態染みたことを強いられているなんてそこの女達は知らないだろう。波折の対人用の偽りの顔は、そんな支配欲をそそられるのだ。皆の視線を集めるこいつを、今満たしているのは、俺。たまんないなあ、そう思いながら鑓水はポケットの中のローターの強弱をぐりぐりといじりながら波折を観察していた。

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