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入ったカフェは地下にある落ち着いた雰囲気のカフェだった。入る前はそのおしゃれさに怖気づいていたが、いざ入ってみれば案外自分たちが浮くということはなく、雰囲気にもすぐに慣れた。このカフェは女性に人気があるのか、女性にあふれている。そのせいかやはり一瞬ではあるが波折は視線を集めていた。
「あんまりこういうところはいったことないな~」
「波折、楽しそうだな」
「……外で誰かと一緒に食べたりしないから」
「……行きたかったなら言ってくれれば良かったのに」
「うん。慧太と家にいるの楽しくて言うタイミング逃してた」
「……おう」
波折は頬杖をついてメニューをみながら、そんなことを言う。いつもならぺったりとくっついてきながら甘い声色で言ってくるのに、今日は微笑みを浮かべながらさらりと言ってくるものだから、なんだか鑓水はドキドキとしてしまっていた。口説かれているような気分だ。ほかの生徒たちにはいつもこう見えているのか……と思うと、そりゃあ「波折様」なんて呼ばれるよなあ、と納得する。
「あ~、俺これ食おうかな」
「……ん? それ? 慧太そういうの好きだったっけ?」
「いや、普段は食べない感じの食べてみようかと」
「へ~。今度そういうの作ってあげようか」
「……作れんの!?」
「なんでも作れるよ。慧太の好きなものつくってあげる」
……むずがゆい。完全に「王子様モード」の波折はすらすらと恥ずかしくなるようなことを言ってくる。思わず鑓水は赤面してしまって、波折と目が合わせられなくなってしまった。しかし、波折はまったく照れていないというわけではないようだ。ほんのりと頬を赤くそめて、しっかりと視線が交わらないように絶妙に視線を漂わせながら、愛おしげに鑓水をみつめていた。その眼差しに気付いた鑓水はドキッとしてしまって、口のなかがからからになって、水をぐいっと飲み込む。
やってきた料理は普段食べるようなものよりもおしゃれなものだった。鑓水は友人と外食をするにしてもファーストフード店やファミリーレストランといったところばかりいっていたため、あまりこういうものには慣れていない。適当に彼女をつくっていたときも彼女と話が合わなくてあまり美味しく食べた記憶がなかったため、正直苦手意識をもっていたかもしれない。
「……あ」
鑓水はふと波折に視線をうつして、固まった。すっと背筋を伸ばして静かに食べている波折。目を奪われるくらいに綺麗だった。いつものリラックスした状態で食べているときよりも清廉としていて目が離せない。
「……ほんとうに、外で食べるのは久々だから、すごく美味しい」
「おう、……そりゃ、よかった」
「慧太と来て、よかった」
「……っ」
あ~、も~、やめてくれ! 心の中で叫ぶ。歯の浮くようなセリフをそう何度も浴びせられては鑓水もまいってしまう。普段もそれなりに波折はこうしたことを言ってくるがそのときは雰囲気のせいで「かわいい」だ。でも今は「かっこいい」に溢れていてガラリと変わった雰囲気にバクバクと鼓動が高鳴って、料理の味に集中できない。
……まあ、でもこんなにこうした雰囲気の店で食べることが楽しいと感じたのは初めてだ。またきてもいいかな、と思えたのは目の前に座って食べている愛しい奴のおかげだ。
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