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――そして、放課後が訪れる。生徒会の活動が始まってから、沙良はいつ風紀委員がくるのか気が気ではなかった。あんな自分よりも体格のいい男に迫られて正面から論破できるほど沙良に度胸はない。たぶん軽く肩を叩かれたりしただけて怖気づいて逃げてしまうと思う。
「――失礼します」
コンコンと扉をノックする音が聞こえて、開かれる。沙良がハッとして扉の方を見やれば――
(き、きた……!)
「生徒会長にお話がありまして」
――存外に早く登場した。篠崎基と、風紀委員と思われる数名の生徒たち。生徒会活動が始まってまだ数分しか経っていない。まだ心の準備ができていなかった沙良はその場を動けず固まっていたが……
「お話なら俺がするんで。外でしましょう」
鑓水がすっと篠崎の前にでる。笑ってはいるが、その眼光は鋭い。じろりと篠崎を睨みつける鑓水は、そう、ガンを飛ばしている。見た目が不良じみている鑓水にそんなことをされれば普通の人ならば逃げるだろう――しかし篠崎はそんなことはなかった。
「鑓水くん。貴方には用がないんです」
「俺達もあんたらに用はねえな。邪魔だ、帰れ」
「横暴な発言だ……それが副会長の言うことですか」
「どうせろくでもないイチャモンつけにきたんだろ。こっちは暇じゃねえんだよ。っていうか学園祭のことは文実に言いやがれ、俺達はただのサポート役だっつーの」
じりじりと火花が散っている。おろおろとする沙良の横で、波折は涼しい顔をしていた。慣れているのだろう。この場は鑓水に任せたとでもいうように、淡々と作業を続けている。しかし――
「だから……番犬には用がないんです。どいてください」
「あ!? 誰が番犬だって!? あっ……おい、コラ!」
篠崎は鑓水を押しのけて生徒会室に入って来てしまった。
「あ、あの……波折先輩今忙しいんで、」
「どいてください」
「ひいっ」
波折のもとに向かってきた篠崎たちを、沙良は震える声で制止したがあっさりと跳ね除けられる。そのあまりの情けなさに、沙良は苛々とした様子の鑓水にぽかっと殴られた。波折の前に立つ篠崎を威嚇するように、鑓水がその背を睨みつけている。「番犬」とはよく言ったものだ……と沙良はもはや他人ごとのようにその様子を眺めていた。
「……お話とはなんでしょうか」
「この件です。ここに、問題点がありますが」
篠崎が資料を波折に突き出した。とんとんと資料を叩きながら、篠崎はその問題点とやらを説明している。波折は表情を崩すことなくそれを聞いていたが、鑓水は我慢ならなかったのかズカズカと二人の間に割り込んでいった。
「だーかーら! これはどう考えても文実が担当することだろ! っていうかこんなの問題でもなんでもねー! 全校生徒にちゃんと概要を説明して、それでみんな納得したんだよ!」
「普通の生徒では気付かないような些細な問題です。しかしその些細な問題が後に」
「問題じゃねえだろ! おまえらの指摘は間違いじゃない、解釈をねじ曲げているだけだ、っていうかどーやったらそんな解釈になるんだよ!」
――風紀委員の指摘は、学園祭について細かく説明されている資料におかしなところがあるというもの。しかし、彼らの言っていることはそこに書いてある文章を非常にひねくれた見方をした場合に生じる「おかしなところ」であり、普通にみればそんな解釈にはなりえない……揚げ足取りに近い、そんな指摘であった。鑓水が風紀委員たちに文句を言いながら、退室を促している。しかし、篠崎はでていくつもりがないらしい。鑓水を押しのけて、なんとか波折の前にでようとする。
「文実に言えとおっしゃっていますが、貴方たちこそが生徒たちの責任をもっているのです。貴方たちにこうしたことは訴えるべきです」
「……」
波折はその資料を眺めながら、じっと篠崎を見上げる。「相手にすんな」と鑓水が目で波折に訴えかけているが……波折はやがてため息をつくと、その資料を手にとって言った。
「……わかりました、私たちが適切な表現に訂正し、文化祭実行委員会に言っておきます」
「……そうですか。では、お願いします」
波折が返事をすると、篠崎は礼をして、あっさりと生徒会室を出て行ってしまった。風紀委員会に敗北したような、そんな雰囲気になってしまったのが気に食わなかったのか、鑓水が波折に咎めるような口調で言う。
「あんな奴らの相手すんなって! あいつら、学園祭を良くしようとしているんじゃなくて俺達を邪魔したいだけなんだぞ」
「あのまま彼らの相手をするのとこの資料を訂正するのじゃあ、後者の方が時間の短縮になる」
「……そうだけどよ~!」
鑓水はどうにも納得いかないらしい。理不尽な理由で自分たちが言い負かされたようなものなのだから。波折がそのことを気にも留めていないのも、また気に食わないらしい。
「……っていうわけで慧太。これ直しておいて」
「はあ!? しかも俺がやんの!? ……クッソ、まじあいつらうぜえ」
生徒会室の雰囲気は最悪。これからもこうしたことが続くのかと思うと、沙良は憂鬱で仕方なかった。
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