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*** 4限目の授業が終わったあと、沙良はいつものように購買へ向かおうと教室を出た。昼休みは定期的に波折に会える時間だから、いつも楽しみにしている。心を踊らせながら廊下を歩いて行き、何気なく吹き抜けから下を見下ろしたときだ。沙良はあれ、と首をかしげる。 「……波折先輩?」 波折は、1階にいた。1階には授業で使うような特別教室もなければ波折の二年の教室もない。いつもなら屋上に向かう彼が、なぜこの時間に1階にいるのだろうと、沙良は不思議に思ったのだった。動かないところをみると、誰かを待っているのだろうか……沙良がこっそり波折を観察し続けていると、予想外の人物が現れる。 「えっ、あれって」 現れたのは、篠崎だ。篠崎は波折をみつけるとにこやかに笑って、するりと腰を撫でる。 え、何アレ。 あの二人は対立していなかったか。沙良は妙に距離が近い二人をみて、違和感を覚えた。どこか影のある笑い方をする波折のことも、気になる。 「……」 気付けば沙良は走りだしていた。人混みを掻き分けて、廊下を駆けてゆく。昨日、波折と篠崎が二人でで生徒会室に残ったとき、何かあったのだろうか。昨日とはまるで変わった二人の間に漂う雰囲気を、沙良は無視できなかった。向かう先は、一階。篠崎に突っ込んでゆく勇気はないが、影から二人の様子を伺いたい。二人を見失わないように、沙良は急いで階段を駆け下りていった。

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