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第1話
じゃぁ、俺とお前で。
その言葉はとても俺には甘美でしかなかった。
誰にでも優しくて成績優秀、甘いマスクにとろけるような甘い声。
事の始まりは、皆で海の家に行こう!と誰かが言い出したのがきっかけで、俺は近くの席に座っていたので、いつの間にか行くメンバーに組み込まれた。
結構人見知りだし、俺が男にしか恋愛感情を持たないのも誰も知らない秘密で、こんな事言える様な友達は一人もいなかった。
それだけ、俺は周りとの壁を厚くとって居たのに今回行かないと切り出さなかったのは、ずっと長い間見て来た人が、参加するから。一瞬でも触れれたら、言葉を交わせたら、そんな不純な動機で参加していた。
そんな俺が、神様のいたずらか悪魔の誘いか...好きで堪らなかったアイツと肝試しに行けることになったのだ。
「おい、白瀬(しらせ)」
「あっ、ごめんぼーっとしてた」
「よろしくな、てか、お化け...出るかな?」
顔が...近いよ、山田(やまだ)。
そしてなんなの、その可愛いセリフ!俺を落とす気満々か!?いや、安心しろ。
「もう落ちてる」
はっ、漏れた!
「あ?なにに?」
そして拾われた!!
「あ、えっと、いや...あの」
言葉出てこない!!と、焦ってたら肩を抱かれて固まった。
何のことは無い、ただのじゃれ合いも俺には心臓が止まるほどの緊張なんだよ。
「まぁいっか、白瀬と俺っ最強コンビだぜ!」
山田が皆には自慢げに言ってるけどなんで俺最強なんだ?別にお祓い出来ねぇし、こんなイベントにもほぼ参加しないのに。
「くぅ、レアだもんなー白瀬」
あっ、珍しい扱いだった。周りも同じようにうんうん頷くから、俺は苦笑いしか出来ない。
そして、やっぱり一緒に遊ぶと、距離が...近い。
それがとても嬉しいんだ。
ビーチで、日焼けしたいメンバーと、したくないメンバーで別れて、パラソルの下に俺は自分の場所を作ると横に山田が来た。
「今日は、俺と同じチームだから同じ行動な」
そう言って、俺の横に寝そべった。
その隣にも日焼けすると、やけど見たくなると言う奴がいたが、俺はそれどころでは無い。
海パンは、トランクス型だったけど上にはおったパーカーは可愛くて。
そんな人が横にいてみろ!
目は馬鹿みたいに、山田のパーカーの隙間の胸の先に行くし、かと思えば股間に行くし!
勘弁しろよ自分...
「なぁ、肝試し白瀬は怖いか?」
「いや、そうでもない...」
俺の答えに目を輝かすな!!
そして時間は過ぎていき、夜が来る...
俺の、至福のひと時は始まった。
「よし、じゃ出発な!」
真っ暗な道のりで5分も歩けば、目的地があるのに、怖がる奴とそうでもない奴はあからさまに態度が違う。
前半の組が帰って来たので俺と山田も次が出番だ。
「おーい、山田、白瀬に必要以上にくっつくと襲われるぞ」
と、ケラケラ笑う仲間達...うん、間違えてないよ。今でもこの細い身体を押し倒したい衝動に耐えてるんだから。
けどさ?
「うっせーな、白瀬は紳士だ!」
俺の絶大なる信頼をそう簡単に壊す事は出来ない。2人で歩き出してすぐだった...
手が温もりに包まれて思わず自分の手を見たら、山田が俺の手を握ってた。
「わ、悪い...このままでいいか?」
「好きに、していい」
あー顔に熱が集まる。
嬉しいし恥ずかしいし、いろんな感情に支配されながらもあっという間に目的地だ。
スイカを手に取り、戻るまでに食べて皮を渡す...それでミッション終了だ。
「ん、山田?」
目の前のスイカを渡そとしたら、キョロキョロ周りを見て怯えてた。
「ごめ、なんか...生き物いた」
「...まぁ、一応森だしな」
三角にカットされたスイカはあまり大きなものでもないから、俺は食べきってまた手を繋いだ。
怯えてたからという言い訳は俺にはありがたい事。
「白瀬ぇ、ありがとう」
そう言って握り返す山田に何の感情もないのはわかってるのに頬が緩んで仕方ない。
「うん、戻ろう 」
「わかっ、うわっ!」
グッと、手を引かれて驚いたが目の前の山田は転びそうな体勢で俺は思わず腰に手を当てて自分の身体に引き寄せた。
「大丈ぶっ...」
ガチリと、歯が...ぶつかった。
「っ、ご、ごめん白瀬!俺怖くて!」
引き寄せたタイミングで山田が抱きついて来たのと、俺が大丈夫かと確認する行動が重なり、互いの歯が...いや、もうこれはキスだろ!
「白瀬?お、怒ったか?」
俺の頬に手を当てて心配する顔はあまりに破壊力があり過ぎて、慌てて目をそらし体を離した。
「いや、大丈夫...戻ろう」
と、腕を引いたら目の前で山田が地面に座り込んでしまった。
えっ!?なんで!?
「腰抜けた...」
あぁ、神様。
今日という日をありがとう。
俺は腰の抜けた山田を背負い、全開でにやにやしながらたった数分の短い道を戻る。本当ならば、もっと、もっと...そんな邪心は叶わないだろう。
「ごめんな、白瀬」
ぎゅっと首元にしがみつく腕も、背中に感じる温もりも、嬉しくて...。
「大丈夫」
それしか答えられなかったけど、短い時間でも、こうやって触れ合うことも叶った。
もう俺はこれで十分だ...
「白瀬って、頼もしいな」
「へぁっ!?」
へ、変な声が出たじゃないか!
「白瀬ありがとう」
「ん」
そう言って、戻った時には皆に笑われた。
主に山田が笑われてたが、俺は幸せを噛みしてることとなった。
Fin
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