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第26話※トーマ視点

3日はあっという間ですぐに聖騎士団長就任パレードが開かれた。 目立つ事はしたくないが義務だと親父は言う、目立ちたがりやな親父は昔のパレードノリノリだったのだろうな。 服を着て髪を整える、昔の親父の面影を感じて眉を寄せる。 今日は俺の他に新しい騎士団の団員も数名加わると聞いていた。 今後俺と共に仕事をする人達だ挨拶ぐらいしとこう。 控え室を出て新人団員がいる控え室に向かいドアをノックした。 ドアを開けた青年は魔法学園を卒業したばかりのまだ少年が抜けていない顔をしていた。 学園で俺を見た事がある筈だが「本物のトーマ様だ!」とはしゃいで握手を求められた。 今後騎士になるなら学生気分は捨てろと注意するとしょんぼりする。 「まぁ今後もトーマ様に会えるんだしそんなに落ち込むなよ」 「うっさいな!話しかけないでよ、一般人!」 「うぐっ…」 せっかく慰めたのに逆に冷たく言われ落ち込んでいた。 彼は誰だったか、昨日新人騎士団員のプロフィールを一通り見ていた。 そういえば今日推薦入団者が一緒に参加すると副団長のノエルが言っていた。 確かまだ高等部だから卒業してから騎士団に入るが強い武術を買われ推薦された初の一般学校出身者……茶髪の彼がそうだったのか。 「あっ、申し遅れました!今日は見学もかねて騎士団長様就任パレードに参加させていただくリカルド・ライソンです!」 「トーマ・ラグナロクだ…よろしく」 自然に握手を交わしさっきの青年がリカルドを睨んでいた。 これは挨拶の握手だ、浮わついたものではない。 しかしついこの前彼を見たような、気のせいか? あの日の夜、暗かったしアルトばかり見ていた俺は全く気付いていなかった。 さっきの青年はまだ不満げにリカルドを見た後俺に名前を名乗った。 そして今度はちゃんと挨拶の握手を交わした。 何人かと挨拶を済ませて窓際に立つ男が見えた。 この場で一番最年長であり、俺がよく知る男がいた。 魔法学園時代ほぼ毎日顔を会わせれば嫌でも記憶に残る。 唯一俺に憧れの眼差しを向けず無表情で窓の外を眺めていた。 俺が近付いてる事に気付いているのか気付いていないのかこちらを一度も見ない。 「お前は確かシグナム家の使用人だったな」 「……えぇ、でも今は違います」 「どういう意味だ」 「そのままの意味ですよ、ヴィクトリア様を怒らせてしまいクビですよ」 何でもない事のように話す。 何故元シグナム家の使用人が騎士団に入るのか、なにか企んでいるのではないか。 …あの事件があり彼とシグナム家の令嬢に悪いイメージしかない。 あの時、近くに自分もいたのに誰一人守れなかった。 魔力がいくら強くても無力な自分が嫌だった。 今度こそ、絶対に守りたい…国民を…あの子を… 彼も悪いイメージを持たれてる事は分かっているから最初から俺の仲間になるという意識はしていないようだった。 「僕が騎士団に入ったのは、強くなって僕の主をシグナム家から守るため…それだけです…他なんてどうでもいい」 「主ってあの令嬢か?」 「本当の主、ですよ」 よく分からない、シグナム家には二人子供がいるのか?それとも当主の事? いや、魔法ランクSSSの当主を守るとか言わないか。 なら最近中身が変わった弁当は誰が作ったんだ。 あの令嬢が作ったものではなさそうだ、キャラ弁とかヘルシー弁当にしそうだし… 味付けも自分好みでちょっと楽しみにしていたんだが、別の使用人か? 今回の新人団員はノエルが全て選んでいた。 いろいろと不満がある団員もいたが、魔力ランクと出身校だけで判断するな!と一喝した。 武術が優れていても魔力ランクが低いと諦めてしまう魔法使いが多い。 全てを判断しなくては魔法だけじゃ王都を守れない。 文句があるならかかってこい!まとめて捩じ伏せてやる!…ノエルらしいがパレード前に団員を怪我させるわけにはいかずノエルを止めた。 そして魔法ランクは低いが武術が高いリカルドと元シグナム家の使用人のこの男が選ばれた。 ノエルが選んだ奴なら大丈夫だろう、使用人は不安だったがまぁいいだろう。 もうそろそろパレードが始まる、俺は新人騎士団員と共にパレードに向かうために控え室を出た。 パレードは正直歩くだけだから大変だ。 俺の前には俺が仕える王様がいた。 何度か会った事はあるがまだまだ元気だ、今年で80だったっけ。 もうすぐパレードは終わる、城からスタートして広場や市場などを抜けまた城に戻るルートだ。 やっと終わる、騎士は笑顔を振り撒かなくていいとノエルに言われて安心していた…普段慣れない愛想なんて振り撒いたら顔が痛くて仕方なくなるところだ。 そして、ふと目が合い驚いた。 木の上から見ていたのかパレードがはっきり見えるだろう。 俺からも上を見上げれはよく見えた。 3日間ずっと探していた、会いたかった彼がそこにいた。 気付いたら足が勝手に動いていた、早く捕まえないとまた逃げてしまいそうだ。 俺はパレードを抜け、見物客に見つからないように通りすぎて彼がいるであろう木の傍に向かった。

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