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第56話

暖かい光に包まれた、安心する暖かな光… でも、なんでだろう…こんなに悲しい気分になるのは… 目を開けたら目の前に広がるのは闇に溶けた緑だった。 こんなところで何してたっけ?と考えていて膝が重いなと下に目線を向けた。 驚いて固まった。 膝に頭を乗せ倒れているトーマが見えた。 この状況が分からずとりあえずトーマを起こそうと足を動かした。 「いっ!!」 ズキッと足が痛み、足を見ていろいろと思い出した。 そうだ、トーマに会いに寄宿舎の近くまで来てそこで知らない騎士二人に襲われたんだ。 ズボンは血だらけで歩けないほど酷い怪我だったのに見れば大した傷ではない事が分かる。 ……トーマが治してくれたのかな。 寝てるのを起こすのは悪いと思うが、トーマに伝えなくては… 寝てるトーマを起こすのは出会いと再会した時とこれで三回目だな。 軽く揺する。 しかしトーマはピクリとも動かない。 ちょっと強めに揺すっても反応がない。 生きてるか心配になり、トーマを地面に寝かせて胸に耳を当てた。 とくとくと心臓の音が伝わり、一先ずホッとした。 トーマ、疲れてるのかな。 手に触れると剣を振った時の傷なのか包帯が赤く汚れていた。 自分に魔力があればトーマの傷を治せるのに… トーマは寝ててきっと分からないだろう、でも…もう空は真っ暗だ……約束したから帰らなきゃ… トーマが起きるまで待てない。 トーマがまだ熟睡してなかったら俺の声が届くかもしれない。 限りなく低いけど、これしかもうないんだ。 ……次に会う時は、敵対してるかもしれないから… 「トーマ、聞いて…トーマにとって残酷な事かもしれないけど言わなきゃいけないんだ…トーマのお父さんはこの国の情報を敵国に流している、シグナム家の人は皆知ってる…だからトーマのお父さんを利用して戦争を起こそうとしている……お願い、トーマ……シグナム家より先にトーマのお父さんを捕まえて」 トーマに返事はない、ぎゅっとトーマを抱き締める。 トーマが生きてる…それは分かっているが、俺の選択を間違えばバッドエンドになる。 トーマの死が現実になる。 ポロポロと涙を流してトーマの頬に触れて顔を近付ける。 綺麗な顔、見ているだけで魅入られてしまう。 もう俺はトーマに魅入られた一人だけどね。 「トーマ…大好きだよ」 届く筈のない、悲しい告白… トーマの唇に軽くキスをした。 ふわふわと暖かな空気が俺とトーマを包んだ。 何だろうこれ、でも嫌な気分じゃない。 トーマの瞼が動いた。 ゆっくりと目を開ける、そこには蛍のような丸いものが浮いて空に溶けた。 幻想的な光景にため息が溢れる。 手を伸ばすが掴めず、丸いものはなくなり静寂が訪れる。 その場にはトーマしかいなかった。 夢の中でアルトの声が聞こえた。 父の話をしていたが、はっきりとは分からない。 …でも、最後ははっきりと分かった。 トーマは星を眺めながらフッと笑った。 「言い逃げなんて酷いな、俺にも好きだって言わせてくれ」 トーマの瞳に涙が浮かんだ。 この場からいなくなってしまった愛しい人を想う。 唇の感触がまだ残っていた。 ゼロの魔法使いの力を感じた。 でも今までとは違うなにかがあった。 優しさと切ない気持ちを感じた。 包帯で汚れた手を見つめる。 強く拳を握りトーマは改めて決意する。 君を絶対に迎えに行くから待っていろと… 君がいたこの場所で君に永遠の愛を誓おう。

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