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第59話※トーマ視点
グランは長年シグナム家に仕えていた、それは俺自身も見たから知っている。
だからシグナムの事なら知っているだろう。
とはいえ今は騎士団員だ、グランに潜入しろとは言わない…シグナムにとってはグランは裏切り者…何をするか分からないところに向かわせるのは危険だ。
だから出来る限りシグナム家の行動を報告してほしい、シグナム家に接触せず影からでいい。
グランなら何処に見張りがいるか、この時間誰が何処にいるか分かるだろう。
グランにしか出来ない事だ。
グラン一人だと難しそうだからリカルドも協力するように頼んだ。
グランの背中を守るのはシグナムに気を取られているグランじゃ限界があるからな。
元とはいえ主の行動をスパイしろとは言っているんだ、グランの顔が緊張で強張った。
「…無理そうか?」
「………………いえ、それがアルト様のためになるなら」
俺は強く頷いた。
必ず姫の助けになる、俺はそう信じている。
そして二人は作戦会議をするために俺に頭を下げて歩いていった。
次は俺の番だ。
ノエルと話す事があるからとリンディと別れて自室に向かった。
ノエルには指名手配の他に別の仕事を頼みたかった。
騎士団の中で一番信頼している副団長のノエルにしか出来ない事だ。
それは、とても危険な仕事だろうが…騎士団になった時から俺達はどんな事があってもこの国を守ると誓ったんだ。
……その相手がたとえ英雄だったとしても…
自室に入るとノエルはドアの横に寄りかかった。
「話って?リンディ様に聞かれちゃまずい事?」
「リンディだけじゃない、騎士団には憧れてる奴らも少なくない…確証がない話だから混乱を避けるためだ」
「……どういう事?」
さっきまで普通の顔だったが、眉を寄せて険しい顔になる。
俺はアルトに言われた事を言わず英雄ラグナロクに不穏な動きはないかノエルに聞いた。
ノエルは街でたまに親父を見かけるみたいだが特に注意して見ていたわけではないから分からないという。
……当然だな、俺だって個人的に親父が嫌いなだけで何をしているかなんて知らない。
確かにたまに親父が大金を持ち帰る事があり騎士団を辞めてぐうたらしている親父がなんでそんな金を持っているのか不思議だった。
本気じゃないが、ヤバイ事でもしてるんじゃないかと一瞬思った事がある。
………まさか、本当に?だとしたら俺は…
「トーマ、ラグナロク様がどうかしたのか?」
「確かめたい事がある」
「それって…」
「確証がほしい、白でも黒でも俺は親父を調べる」
「…そうか、それで俺も協力してほしいと?」
「嫌なら構わない、俺一人でも出来る」
「見くびるなよ、何年親友やってると思ってるんだ?」
ノエルはニッと笑った。
俺は仲間に恵まれてるなとノエルに感謝した。
正直ああ言ったが俺の力を知ってる親父がなにか対策されたら手も足も出ないところだった。
……親父の剣を俺は知っていた。
周りからは魔獣を倒した聖剣だと言われていた。
銀色に輝く長剣、でも俺は偶然一度見た事があった。
あれは聖剣ではない、魔獣の血を浴びて黒く染まった魔剣だと…
あの魔剣は触れた者の魔力を奪い、命までも散らす。
初等部の頃、下校中…少し遅くなってしまい寮への近道の路地裏を通ってた時…
何を命令したか分からないが命令を失敗した親父の昔の部下に長剣を軽く触れた。
人を切りつけるわけではなかったから気にしてはいなかった。
その人が苦しみだすまでは…
俺のような魔力放出する魔法使いと違い普通の魔法使いは命と魔力は紙一重。
魔力がなくなると命までも失う。
その人は光のようなものが体から溢れ出して消えた。
あれが今思えば目に見えた魔力だったのだろう。
倒れたその人は二度と起き上がる事も指先一つ動かす事も出来なかった。
「トーマ」
「!?」
気付いていたのか親父に呼ばれて、親父に近付いた。
怖かった、人の命を奪うこの男が…この男の血が流れている自分が…
親父は俺に魔剣を見せて説明をした。
魔力を奪い、人の命を奪う剣だと…
何故親父は平然としている?この国を守った英雄ではなかったのか?
倒れている彼は敵ではなく親父が守ったこの国の民なのに…
騎士団って、なんなんだ?
「いずれお前もこの剣を使う時が来るだろう、その時は俺と同じ道を歩むだろう」
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