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第92話
「……?……???」
パラパラと捲るが暗号のような文字が続いているだけで全く読めない。
タイトルは読めたのになとがっかりしつつもガリュー先生なら読めるかもしれないと思いながら本を持ちガリュー先生を探す。
本棚に寄りかかり目がチカチカしながらも探すリカルドと埃まみれの本棚を触れないが頑張って触ろうとしているグランがいた。
そしてうろうろとしていると脚立の上で座りながら本を見るガリュー先生を見つけた。
真剣な顔で本をペラペラと見ている。
邪魔しちゃ悪いかと声を掛けるのを戸惑っていたら、ガリュー先生は俺の視線に気付いた。
慌てて本を閉じてカンカンと音を立てて脚立から降りてくる。
「ごめん、興味深い内容の本だったから夢中で」
「俺も邪魔してごめんなさい、何の本ですか?」
「とある人の日記ですよ」
そう言ったガリュー先生は楽しそうに話していた。
その日記は初代国王の日記だという。
初代国王は強い力を持ちながらも病に犯されていたそうだ。
病を患っていたのにシグナムの当主に勝ったのは本当に強かったんだな。
その病は特殊なもので一種な呪いと言われていた。
強い力を手にする代わりに定期的に自我を失い暴走するというものだった。
その制御は難しく、力の源である魔力を減らすしか方法はないという。
それが出来るのはゼロの魔法使いしかいない。
しかし初代国王の時代にはゼロの魔法使いは居なくて初代国王は自分が暴走して国を滅ぼすのを恐れて息子に王位を継がせた後に城の地下牢に自ら入り、その生涯を終えたという。
今、その人がいたら俺が助けてあげられたのになと悔しく思う。
この国を守った立派な人なのにその力によって死んでしまうなんて…
「アルト様が悪いわけじゃないだろ、そんな顔しないで」
「…その人は一人で寂しかったのかな」
「俺には分かりません、でも…」
「この日記からはそういう負の感情が感じられません」とガリュー先生は微笑んだ。
確かにとても丁寧な字で、この日記を書いたのは助けてほしかったのではなく…こういう事があったと同じ病に苦しんでいる身内に向けて書いた内容のような気がした。
自分は病で死んだが、それでもこの世界を救った…だから君にも出来る事がある…そう言っている気がした。
本当の事なんてわからないけど、なんとなくそう思った。
ガリュー先生は本を元あった場所に戻した。
いつか同じ病気の子に出会ったら教えたいなとそう思った。
でも不思議だ、なんで初代国王の日記が城ではなくここにあるのだろうか。
なにか理由があるのだろうが、古いものみたいだしトーマも分からないような気がした。
「それで、俺になにか?」
「あ、そうだ…これ…真竜に関する本だと思うんだけど内容がよく分からなくて」
そう言ってガリュー先生に本を見せた。
ぺらぺらと本を捲るがガリュー先生の悩む顔を見てガリュー先生にも分からないのかと落ち込む。
いろいろな本を読んでいるガリュー先生にも分からないとなれば誰にも分からないのかもしれない。
せっかく見つけた手がかりなのにと本を見つめる。
あれから数時間探したが真竜の伝説の本しかなかったそうだ。
それはゲームで既に知ってる内容だから目新しいのはない。
やはりこの真眼の本が一番真竜に近い気がした。
本当に真竜の本かは分からないけど…
しかしグランとリカルドに見せても読める人はいなかった。
「とりあえず気になるならこれだけ持ち出していろんな人に聞く方がいいかもしれないな」
「持ち出して大丈夫かな…」
「アルト様に仇なす者はこのグランが…」
「グラン、だめだよ」
グランが物騒な事を言いそうだったから先に止めておいた。
グランは悔しそうな顔をしても俺の言う事を聞いてくれて大人しくなった。
それを見てガリュー先生は笑っていてグランは睨んでいた。
本は戻してトーマに聞いてからにしよう。
んーっと背伸びしたリカルドの腹が鳴った。
静かな地下室で響き、頬を赤くさせた。
「食堂に行きましょうか」
グランの提案でリカルドは頷いた。
しかし俺とガリュー先生は困ったような顔をして見つめ合った。
俺達は騎士団でもないし裏切ったとはいえ敵のシグナム家の人間だ、食堂に行ってもいいものか悩む。
二人は気にしていないようだが、俺達は気にしてしまう。
ガリュー先生が街に出かけて買い物してくるから俺と休憩室で夕飯を食べようと提案してきて頷いた。
休憩室に人がいるかもしれないが、そこぐらいしか食べれる場所がない。
しかしそれに待ったをかけたのはグランだった。
「なんでガリューだけがアルト様を独り占めするんですか!納得出来ませんよ!」
「…ギャーギャーうるせぇな、お前だって散々アルト様を独り占めしてきたんだろ…譲れよ」
「譲りません!」
即答で答えたグランとガリュー先生は睨み合っていた。
一緒がいいなら皆で食べればいいのに何故喧嘩になってしまうのか。
言い合う二人を俺とリカルドは見ていた。
リカルドも同じ気持ちみたいで「独り占めが嫌なら皆で食えばいいじゃん」と呟いていた。
俺が原因みたいだし、俺が皆で食べようと言うとグランは明るく賛成した。
ガリュー先生は微妙な顔をしてグランを睨んでいた。
てっきりグランの方がガリュー先生を嫌っていると思っていたが、もしかしたらガリュー先生の方が苦手意識が高いのかもしれない。
悪い事をしてしまったと暗い顔をするがガリュー先生は「行こう!」と明るく俺の背中を軽く叩いた。
そして真眼の本を分かりやすい場所に置き資料庫を出た。
資料庫の中は電気が付いていても決して明るいとは言いがたかった。
地下からやっと地上に戻り、明るさに目を細める。
「埃っぽくなったな、一度風呂入った方がいいかもな」
リカルドの言葉に頷くと、何故かグランは目を輝かしていた。
それをガリュー先生が冷めた目で見ていた。
確かに頭もちょっとパサパサしてるかもしれない。
でも俺手ぶらでここに来たから着替えなんて持ってない。
それはガリュー先生も同じだった。
ガリュー先生ならグランやリカルドの服のサイズに合うが俺だとどうしても合わない。
その事を考えてなかったなと悩む。
「じゃあアルト様!一緒に入りましょう!」
「…あ、でも着替え…」
「姫は俺の部屋で入ればいい」
ふと第三者の声が聞こえて皆そちらを見る。
するとそこには用事が終わったトーマが立っていた。
後ろにはニコニコと笑うノエルもいた。
俺は嬉しくてトーマに近付きたかったが埃っぽいから寸前で立ち止まった。
そんな俺にトーマは手を引いて歩き出した。
皆悔しそうな顔をしていたが、俺があまりにも幸せそうな顔をするから何も言わず見送った。
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