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第97話※トーマ視点

アルトは異変に気付いていないのか驚く俺を見て首を傾げていた。 その仕草が可愛くて愛しくて再びギュッと強く抱きしめた。 近くで舌打ちが聞こえた、待ってれば会えると言ったのはそっちなのに何をイラついているんだ。 しばらくアルトを堪能していたら強制的に子供に引き剥がされた。 神だからって何してもいいと思うなよ…と目で訴えたところで人の話を聞く奴じゃなかったとすぐに思い出した。 アルトも今気付いたのか神の方を見つめている。 ちょっと神に嫉妬した、大人気ない事は分かっているが好きな子を独り占めしたいのは男として当然だと俺は思う。 「もう!俺だってアルトと話したいのに!やっほー!アールト!ぬか漬け食べる?」 「…え?ぬか?」 アルトは当然声を掛けられ戸惑っている。 そりゃあ初対面なのに友人のように馴れ馴れしく話しかけてきたら戸惑うよな。 ぬか漬けがさらに意味分からなくしていた。 アルトは俺に助けを求める顔を向ける。 正直俺はこの子供の正体を知らない。 神だと思っているのは俺だけで、直接聞いたわけではない。 だから何の情報も名前も知らない相手の事を勝手に話せないが、アルトを助けてくれた…それだけは紛れもない事実だ。 それだけはちゃんと伝えようと思った。 「アルト、彼は…」 「あ!ごめんごめん、フード付けたままだった」 俺の声を遮り子供は大きな声を上げる。 いきなりどうしたんだと俺とアルトは子供の方を見た。 子供はフードに手を掛けていた。 そのフードは呆気なくぺたりと背中の方に落ちていった。 クリーム色のふわふわした髪に少女と見間違うほどの中性的な容姿だ。 俺は一度見た事はあるがはっきりと見たわけではなかった。 ふと隣にいるアルトを見るとアルトは俺よりも驚き目を丸くして固まっていた。 「…アルト」 「ル…カ?」 アルトは名乗られていない子供の名前?を名乗った。 以前に会った事があったのか?アルトの態度からして初対面とは思えなかった。 アルトは上手く整理が出来ず「え…うそ、なんで!?」と戸惑っていた。 ルカと呼ばれた子供は笑ってアルトを落ち着かせようとぬか漬けが綺麗に切られて乗っている皿をアルトの前に持ってくる。 もうぬか漬けはいいだろ。 二人が知り合いだったらあの馴れ馴れしさにもいろいろと説明がつく。 とりあえず俺達は立ち話も疲れるからと子供に座らされた。 アルトは子供から出されたお茶を飲んで一息つく。 「…お前の名前、ルカって言うのか?」 「そう、僕の名前はルカ・アンディ!」 「……僕?」 「アルトにはこっちの方が慣れてるからね!いつもはこの可愛さを維持するためにかわいこぶりっ子で僕って言ってたけどあんまりやると疲れちゃうからここでは素の神様ルカ様だったわけ!」 「…神様?」 今度はアルトが反応した。 俺の思った通り神様だったのか、それにしても猫被ってアルトと一緒にいたわけか。 …でも何故そんな事が出来る?アルトが死んだあの日、ルカはいなかった筈だ…子供がいたらすぐに分かる。 だからてっきり空から見ているのかと思った。 ルカは「てか、トーマは酷いよねぇー一度会ってるのに忘れるとかさ」とアルトに愚痴を言っていた。 会ってる?何処でだ?…正直騎士団長の仕事をしているといろんな人間に会うから一人一人正確には覚えていない。 個性がある奴だったら何となく覚えているが、残念ながらルカは覚えていない。 「僕が二人を結ばせたようなものなのに酷い!ねぇねぇアルト、こんなのよりリカルドにしない?ちょーっとヘタレだけど」 「俺はトーマが好きだから」 なんでそこでリカルドが出るのかと眉を寄せたがアルトの一言が心に響いてルカの言ってる事なんて気にならなくなった。 忘れた事は申し訳なかったと謝ると許したのかそうでないのか分からないが、ルカは小声で「惚気…」と俺の顔を見ながら微妙な顔をしていた。 …ルカは俺が嫌いなのか?本当に謎の神だな。 ルカはアルトに全て話した。 俺が体験したあの出来事を… そこでアルトは俺がゲームの事を知っていた事を理解した。 「そう、だったんだ…言ってくれれば良かったのに」 「うーん、でもやっぱり素のアルトが見てみたかったしね、そのおかげで俺は禁忌を犯してまでアルトを助けたいって思ったんだよ」 「…禁忌って…え」 「いくら神様でも人を生き返らせたら世界が変になるからね」 そう微笑むルカにアルトはそっと抱きしめてごめんなさいと謝った。 元々は俺がアルトの手を離したせいだ、シグナムがアルトにあんな事をするなんて分かっていたら… アルトの肩に手を添えて俺もルカに謝る。 ルカは「惚気…」とまた微妙な顔をして俺を見る。 俺が何しても気に入らないのか? ルカはアルトの背中をポンポン軽く叩き慰めていた。

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