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大切“だった”

お前が愛してると言っても、俺はもうお前のことを好きですらないから、 返す言葉も涙を堪えるお前を慰める権利もない。 たぶん、俺たちは長く一緒にいすぎたのだろう。 お互いを理解しすぎてしまった。 何でも受け入れて、許してくれるお前は俺にとってかけがえのない存在で、 とても大切だった。そう、大切“だった”。 大切なことや欲しい言葉は、いつも言わずに黙り込んでいたことを狡いと言ったのは俺だから、目を見て伝えた別れの言葉だけじゃ足りないのだろう。 本当は弱いお前の強がりを一番知っているのは俺なのに、 それを分かっていながら別れを告げる俺はなんて卑怯なのだろう。 涙を見せないお前が、人知れず泣いていたのを俺は知っているのに。 俺の一言一言が、お前の心を切り裂いてバラバラにしていく。 こんな風にしか終わりに出来ない俺に、嘘でもいいからと縋るお前はもう俺の知るお前ではなかった。 きっと、俺はお前から貰った抱えきれないほどの愛情を忘れることはない。 でも、俺自身の愛情はもうお前には向いていなくて、ここには何も持ってきていない。 悪いのはお前じゃない。言い訳に聞こえるだろうけど、誰も悪くはない。 だからこそ、俺には何もできない。

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