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君の匂い
昨日の夜、お前がいなくなってからもう24時間が経った。
俺はまだ一歩も外に出ていない。
未だに信じられない。お前がいなくなったことが。
自由奔放で、マイペースで、よく寝坊するお前のことを想って、
5分早めた家の時計も、もう何の意味もなしていない。
タバコが嫌いな俺を気遣っていつもベランダで吸ってたよな。
言葉にしないお前の優しさが俺は大好きだったよ。
風に吹かれてカーテンが揺れてベランダが見えた。
昨日までそこにいたお前がいないことを突き付けられて鼻の奥がツンとした。
『もっとちゃんと俺を見てくれ』
言葉にしてしまった俺が悪かったのかな。
縛られるのが嫌いなお前には重い言葉だったのかな。
あんなこと言わなかったら今もここにいてくれたのかな。
俺のことはきっとお前の方がよく知ってる。
眠い時に体温が上がるとか、キスは短めが好きとか。
でも、俺はお前のことどれくらい分かってたんだろうな。
思い出して一番最初に浮かんでくるのはお前の好きなタバコの銘柄。
もっとちゃんとお前を見てれば、なんて今さら気づいても遅いよな。
今さら気づいたって、こんなことに意味なんてない。
机を見ればお前が置いていったタバコ。
俺の大嫌いなものなのに、どうしてお前は置いていったんだろうな。
そして、それに火をつけてしまう俺はどうかしてる。
火のついたタバコからはお前の匂いがした。
その匂いに誘われるようにひとくち吸ってやっぱりむせた。
少し苦い君の匂いが蘇って泣けた。
『もっとちゃんと俺を見てくれ』
言葉にしなかったらなんて考えたところで、
全てはもう終わったことで取り返しがつくことでもない。
でも、今はもう少しだけこの少し苦い匂いを感じていたい。
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