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第60話

 口調が疑問から断定に変わったところで、千世の態度は変わらない。  弟が何と言おうが自分の勝手だ。泰志には関係ない。 「千世にぃって思ったより鈍いんだね」 「何それ。悪口?」 「悪口なんて言わないよ。心配なだけ」  弟に心配されるようでは兄の沽券こけんに関わる。そもそも告白された時点で、兄として見られていないのかもしれないが。 「泰志に心配されなくても平気――んんっ!?」  まだ喋っているのに唇を塞がれて、くぐもった声が口の中で反響した。突然の出来事に驚く間もなく、泰志の舌がぬるりと侵入してくる。 「んぁ、ん……んむ…はっ」  口の裏側を舐められているだけなのに、泰志の舌が辿ったところからじわじわと心地良さが伝播(でんぱ)していく。それはやがて下半身にまで訪れて力を失わせていった。 「ん、んんぅ……ん、あ…ぁふ」  潤んだ瞳で泰志を見上げる。彼の褐色の眼は色情に染まっていた。 「あのさ、千世にぃは無防備すぎるんだよね。今だって俺のこと弟としか思ってないでしょ? 俺も一人の男なんだよ」

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