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第1話
『桜と葵』
刃と刃がぶつかり合う音。叫び声や人を切り裂く音。
そして目の前で信頼していた仲間達が無残にも殺され命が消えていく。
全てが俺の心を壊していく。その元凶である目の前の仮面をつけた男のせいで。
俺は泣いて叫んで仲間を殺すな!殺すなら俺だけにしろ!と男に訴えた。でも男は俺に冷ややかな目でこう言った。
「魏桜(ぎおう)皇子。そなたは敵将であり、敵国の皇子。そう簡単に殺すことはしない」
言葉を最後に俺は意識が途切れ、その時なぜが懐かしい声だと思った。
俺が生まれた国は裕福とまではいかない国ではあったが民との繫がりはとても強かった。王族である俺でも城下に行けば皆分け隔てなく慕ってくれていた。俺にとって大切な民と国。それなのに数年前国境を越えた隣国の王が平和条約を破り、戦を仕掛けてきた。俺の父はそれを止めるべく隣国へと行き隣国の王が反逆と言い父を捕らえ斬首となった。しかもその切られた父の首を俺達の国の入り口に晒して。
あまりにも惨い事をする隣国に国も民は悲しみ隣国を敵国として戦をすると言い出した。しかし戦をするのは駄目だと母が訴えた。それは亡き父がもしもの時に残していた遺言書に記述されていたからだった。父は殺されると分かっていながらも隣国に行ったのだと母が言い俺は何も出来ないままだった。
こんな時、汪葵(おうき)兄上がいてくれたらと…何度も考えた。俺には血の繫がらない4歳上の兄がいた。名前は汪葵。とても優しくそして強い人だった。汪葵兄上は俺にとって憧れの人で恋焦がれた想い人でもあった。でも俺が18になった年、忽然と姿を消してしまった。俺は悲しくてなんで兄上が急にいなくなってしまったんだと夜な夜な泣いて過ごした。
民は、汪葵兄上は女と逃げた、後妻の子供である兄上が隣国に寝返ったと口々に噂していた。兄上の母上、リツハ様は隣国の出であったからそういった噂が出ていたのだろう。でも後妻であるリツハ様はとても聡明な方で俺もよく兄上共によく話をしていた。リツハ様は俺の父と母とは昔ながらの幼なじみだと母からも聞いていた。
リツハ様が兄上とこの国に逃げてこられた時に母に助けを求め、母は父にリツハ様を後妻にと進言した。母は女性でありながらもとても強く武術を嗜み俺と兄上の稽古をよくつけてもらっていたし血の関係など気にせずとても幸せに暮らしていた。
でもリツハ様が床に臥せられ俺が十歳、兄上が14歳の時に天に召された。
俺は泣きながら兄上に抱きついて何度もリツハ様の名前を呼びそんな俺を抱き締めて泣くのを必死に耐えていた兄上の貌は忘れられない。しかしリツハ様が亡くなる前に俺と兄上に泣くな。と言われ兄上はその言葉を胸に泣くのを耐えていたのだと思った。と俺は兄上が生きているのならそれでよかった。兄上が幸せに暮らしているのなら…俺の恋なんてどうでもよかった。
ただせめて俺にも一言言ってくれたらと何度も思った。
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