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「……ッ」  なんとか駅について、いつも乗っている電車に乗ることができた。でも、その満員電車っぷりに芹澤はビビってしまったようだ。俺たちが乗り込んだあたりではそこまで混んでいなかったけれど、次第に車内はぎっちりと人で溢れ出す。芹澤が普段どの電車を使っているのかは知らないけれど、そのどれよりも乗車時間が長いのは確実で、長い時間この満足電車に乗っているのは、芹澤にとっては辛いだろうなあと思った。 「うっ……」 「芹澤、こっち」 「……うん」  知らない人の中で揉まれるのはきっと大変だ。そう思って呼んでみれば、芹澤は素直に俺にくっついてきた。運悪く掴む手すりも吊り輪もないところに流されてしまった芹澤は、ギリギリ吊り輪を掴めている俺に正面からくっついて電車の揺れに耐えている状態。  俺の肩口に芹澤は顔をうずめていて、表情はよく見えない。でもなんとなく、芹澤が嫌がっているのは感じ取れた。周りの人たちからの圧が不快で仕方ないって、そんなオーラが芹澤から滲み出ている。 「ん、」  手に、何かが触れたのを感じた。指先を、誰かに掴まれている。 「……」  ……ああ、しんどい。  自分でも正体のわからない感情が、俺のなかを支配している。そうやって、こんなに人に触れるのを嫌がっているくせに、俺の手を掴んで心の安寧を保とうとしているって。優越感みたいなものを覚えてしまう。今、この電車の中で、芹澤が一番心を許しているのが俺なんだ、って。  なんでそんなことを考えてしまうのかわからない。わからない。 ――身動きを取れないこの状況が、腹立たしい。ただ心だけで、芹澤を抱きしめた。

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