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「皮のむき方は、こう」 「おお……」  涙が可愛すぎて帰って早々にいちゃついてしまったわけだけれど、ようやく俺たちは料理を始めた。とりあえず野菜を切るところからだけど……涙は、包丁の使い方もほとんどわからなかった。まな板の前に立つ涙を後ろから抱きしめるようにしながら、俺が野菜を切って見せてやる。しきりに感嘆の声をあげられて、ちょっと恥ずかしい。 「い、いつも、やってるの?」 「いや、時々だよ? 今日みたいに親がいないときとか」 「へえ……やってみても、いい?」 「おう。怪我すんなよ」  半分まで皮をむいたじゃがいもと包丁を涙に手渡す。色々と持ち方が危なっかしいな、と思って持ち方を直してやって、そしていよいよ涙が皮をむき始める。手先自体は器用なのかもしれない、初めてなのに結構綺麗に向けている。 「すげえな、これで結婚しても安心」 「だ……だから、け、っこん……って……」 「いや……成績からして涙のほうがいいところに務めそうだし……俺のほうが家事やるのか?」 「お、俺も、……家事、やるから……」 「やっぱり家事は分担制がいいな!」 「うん……」  将来の話をすれば、涙は頬を赤くした。伏し目がちの瞳を飾る睫毛が震えて、唇はきゅっと閉じられていて。後ろからちらりと覗けばその表情は実に嬉しそうだった。  そうやってとりとめもなく、将来の計画を話していく。住むなら一戸建ての家がいい、ちょっと都会よりの場所に住んだほうが便利かな、犬を飼いたい……話している内に、野菜を全部切り終える。 「あとは鍋に突っ込むだけだな! 簡単簡単」 「もうできるの?」 「ルーつかえばカレーは超簡単」 「へえ……」  上手にできそう、それを感じた涙は満足そうに目を輝かせていた。鍋に野菜をいれて、「どう?」と問いかけるように俺を見つめてきたから、頭を撫でてやる。 「……俺も、結生にご飯つくってあげられそう」 「うん、楽しみだな」  ……本当に、涙の気持ちは表情じゃなくて目に出る。わずかに細められて涙の膜が張ってきらきらとして、その目はきっと俺との将来に期待を抱いている。そして、その未来が本当に来るのだろうかという、不安も。  じっくり、だな。涙の不安を溶かすには、じっくりと時間をかけて愛してあげるしかない。  涙に、抱きしめるようにしてキスをする。一回キスをするたびにほんのりと、涙のなかの不安の塊が薄れていっているような気がする。だから、何度でも何度でも。時間を許す限り涙にキスをしよう、俺はそう思っていた。

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