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「ごっ、ごめん、悪気はなかったんだよ! ただびっくりしちゃって……ごめん!」  逃げた横山を捕まえたのは、屋上への階段の踊り場。横山は俺に捕まるなり手を合わせて頭を下げてくる。 「あ、あんまり人に言わないでくれ……涙がいやがるから」 「わかってるよ、わざわざ言ったりしないって」  男同士のキス未遂シーンを見たのに、横山は思った以上にさっぱりとした感じだ。横山がいい奴なのはわかっていたけれど、ここまで軽い反応だと逆に疑いそうになる。 「いや、そんな変な顔すんなって。男同士がつき合うとか、よくある話じゃん」 「……よくはないんじゃね?」 「聞かない話ではないっしょ? 大丈夫、全然変に思ってないから! だからといってほかの人に言ったりもしないし」  ……横山は、どこまでもいいやつだ。  たしかに、俺だってたとえば友達が同性同士でつき合っていました、と言ったからといって距離を置いたりはしないと思う。「あ、まじか、そうですか」くらいの反応をする程度。でも、自分ならそうするからと考えたところで、当事者となってしまえば不安でしょうがない。だって、これで涙がまた酷い目にあったらイヤだから。  しかし横山はそんな俺の不安を吹き飛ばしてくれるようなからっとした笑顔をみせてくれた。 「いや~、でもぶっちゃけ、クラスでちょっと言われてたよ? 結生と芹澤つきあってんじゃね?って」 「はっ!?」 「いやいや、かる~い噂話程度。そんな詮索するつもり、みんなないよ。ただ、ねえ……おまえらが思っている以上におまえらの空気は、あまったる~いよ」  横山はにや~っと笑うと、俺の後ろに隠れていた涙の顔をのぞき込む。かあっと顔を赤くしている涙のほっぺをつん、とつついて、横山は「めっちゃ可愛いな」とか言っている。いや、さわんなよ、俺の涙だから。 「距離近いし、結生の顔はでれでれだし、芹澤とか完全に警戒心解いているし。昔のツンケンムードはどこへいったのやら」 「うっ……」  俺は涙を抱き込めて横山の目から隠すと、苦笑いをしてみせた。  横山の言葉は、否定できない。だって涙と話しているとき、俺の心のなかはとてつもなくハッピーだ。それが顔にでている可能性は、大いにある。  俺は今までの自分の行動を振り返り……自制していたつもりが全然できていなかったと反省した。「恥ずかしい」と言っていた涙を思い出して、ものすごく申し訳なくなる。 「ねえねえ、ところでさ」 「あ?」  俺と涙、二人して黙ってしまえば、横山がいやらしい笑顔を浮かべた。そして、すっと人差し指と親指でわっかをつくってみせる。  なんだ……? と思って見守っていると……横山はその輪っかに、もう片方の人差し指を突っ込み、ずこずこと出し入れを始めた。 「エッチって、するの?」 「ばっ――」  そのジェスチャーの意味に気付いた俺は、ばしっとその手をぶっ叩いて、ついでに横山の頭を叩く。涙になんて卑猥なもん見せつけんだ、と怒りを込めて。 「そっ……そういうこと聞くなバカ野郎!」 「えっ、下ネタとかいつも話してんじゃん!? 今更照れる!?」 「涙は神聖なんだよ! てめえの頭のなかで汚したらぶん殴るぞ!」 「汚すとまでは言ってねえだろっ! 教えてくれてもいいじゃんかよ~!」  俺とはエッチしてくれるけど、涙はそういうのは基本苦手なのだ。  しっしっと横山を追い払うようにしてぎゃーぎゃーと騒いでいれば、俺の胸に顔を埋めていた涙が、とんとんと俺を軽く叩いてくる。なんだろう、めっちゃ可愛いな、どうしたんだ涙……なんて、涙の顔をのぞけば、涙は顔を真っ赤にして、ぼそりとつぶやいた。 「……ひるやすみ……おわるよ、結生……あと、よこやま……」

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