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「――あなたは、俺のことをどう思ってるの……。ううん。あなたは、どうして俺を産んだの。……ううん」 「決まった?」 「……いや。なんか、……違うような気がする」 「ゆっくり考えなよ」  俺たちは海岸までのぼって、のんびりと海を眺めていた。俺は今度あの人に言いたいことを、頭の中で整理する。ここで考えたほうが、自分が本当にあの人と話したいことがわかるような気がした。 「絶対その場になると言いたいこと吹っ飛んじゃいそう……ちゃんと考えていかないと……」 「静かな室内で込み入った話するのって緊張するよな」 「うん……こう、ここみたいに開放的な場所なら話しやすいんだけど」 「つれて来ちゃえば?」 「ええ? 何言ってんの?」  つい先日、あの人の前にたった瞬間に何も話せなくなってしまったときのことを思い出す。俺の悲しみの捨て場所だった部屋の前。苦手な香水の匂いをまとうあの人。ポストに督促状のたまった扉。何事もなく立っているだけでも緊張するあの空間で、今までの人生をひっくり返すようなことを言うなんて、どう考えても無理だ。成長しきれていなかった自分に言い訳するようで情けないけれど、あれは時と場所を間違えていたとも思えなくない。  海――それは、あの人と話すには理想の場所かもしれない。結生の言葉は思わず突っぱねてしまったけれど、考え直してみればそれ以外には考えられなくなってしまった。 「……時間、合わなくない? あの人、休みもほとんどないし」 「早朝とかは? 眠いかもしんないけど」 「早朝? 暗くない?」 「暗い部屋よりましだろ」 「……まあ、そのとおりだけど」  ……早朝の海か。あの人が仕事から帰ってきて、そして俺が学校に間に合うように行くとなると、相当早く行くことになる。今日も結構早く海に来ていたけれど、それよりも早くとなると、まだ日も昇っていないだろう。  暗い海。まだ、この目で見たことがない。暗い海は、俺たちを救ってくれるのだろうか。あの日、俺を救ってくれた東京の海と同じように。 「……狭い海でも暗い海でも、結局は同じ海だからさ。自信持って行けよ。いつでも海は、涙の味方だよ」  結生がごろんと寝転がる。俺もまねをして寝転がってみれば、遠い空が見えた。潮風と共に空を抜けてゆくカモメが、数羽。俺もあんな風に飛んでみたい、そう思った。

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