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第27話
それはまるで奇跡のようだった。
けれど何だか夢か幻を見ている気がして、ぼーっと彼らを眺めるわんわん。
その冷え切った身体を書記さまが優しく撫でさすり、強く強く抱きしめた。
「わんわん……遅くなって、ごめん。もう怖く、ない。大丈夫、大丈夫……!」
「書記さま……っ……」
***
「あのあと、わんわん君ってばキュウキュウ泣きっぱなしで可愛かったよねー。まぁワンコ書記が抱っこしながら必死で慰めてて大変そうだったけど」
「よほど心細かったのでしょうね、可哀相に。どんなに私達が話し掛けても泣き止むことが出来ませんでしたから」
「でも、ポロポロ泣きながら先輩に一生懸命しがみついてる姿はちょっと微笑ましいなぁって思いました。わんわん君、泣き疲れて結局そのまま眠っちゃいましたし。やっぱり先輩と一緒だと安心するんでしょうか」
「…………チッ」
一昨日の出来事を振り返る役員たち。
ちなみに
それぞれ脳内では『迷子になった犬とその飼い主、感動の再会』的な場面を重ねていたりする。
その筈なのだが。
「会長さっきから怖い顔してるけど、どうかしたー?」
「あ? どうもしてねーよ。つか、お前だって変なツラしてんぞ」
「はぁ? 何それブジョクー? 俺の顔のどこが変なんだよ、いじめ反対ー」
「いつ俺がテメエを虐めたよ、何時何分何秒!」
「うっわー会長ダサ、それ言っちゃうんだ」
「な、テメ!?」
「ああもう、黙りなさい二人とも!」
「先輩たち本当に遅いですねぇ……」
泣きながらしがみつく、わんわん。
それを愛しそうに抱きしめていた、書記。
二人の姿を思い出す度、何故かチクッと胸の辺りが痛む気がするような。
個人差は多少あるものの自分でもよく分からない原因不明のモヤモヤを感じる者、数名。
彼らがその理由に気付くのは、残念ながらもうしばらく後のことである。
【逃亡わんわん/END】
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