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第48話

それに比べたら今のは診察中の医者と患者って感じに近いような。丸椅子に座って(多少斜めながら)向かい合ってたし。 ゾクッときたのは指の冷たさに驚いたせい? しかしなんて空気を読めるポットだお前。型が古い為か沸騰まで時間がかかるのが難点だけど、ナイスタイミング。 お礼に明日からはもっと大事に使ってやるからな。 そう決意し、隊長さんにめくられたシャツの裾を元に戻す。 「うう……でもやっぱセクハラされた気分」 「え!? す、すみません、そんなつもりじゃなかったんですが!」 驚いた顔で振り向く隊長さん。 しまった、心の中で思ったつもりが間違えて口に出ちゃったか。 ボフッと顔を赤く染めカップを倒したりスプーンを落としたりと、珍しく動揺する姿が見れて面白いからまあ良いや。 とはいえ、そろそろ助け船を出さないとキッチンがぐちゃぐちゃになりそうだ。 「あー…えっと、俺そんなに犬っぽいですか? 特にその雑種のノラ君に似てる? 一応生まれ変わったつもりは無いんですけど」 あごの下を撫でられて気持ち良いのは、多分偶然だし。 「似てます……ね。他の犬のことはよく知りませんが、書記さまからお預かりしたあの子になら。 野良犬だったわりに凄く人懐っこい甘えん坊で、ちょっとお馬鹿で、散歩とおやつとボール遊びとブラッシングが大好きで。だけどお風呂が苦手らしく、洗おうとすると尻尾が垂れちゃったり。そんな時にはよく首やお腹を撫でてご機嫌取ってあげたなぁ。 うん、本当に可愛かった……」 駄目だこれ。 またどっかイっちゃってるよ隊長さん。 どんだけその犬が好きなんだよ。 そして『甘えん坊で、ちょっとお馬鹿』なとこも似てるのか俺。失礼だなおい。 あと、別に風呂は嫌いじゃないよ? 大好きでもないけど普通だから。 ところで、そんなに世話をしていたなら書記さまではなくもはや隊長さんの犬じゃなかろうか。 書記さまなんか一緒に居たの、せいぜい数日……って、あれ? そういや今も雑種ノラ君は隊長さんが飼ってんのかな。学園に連れて来るのは無理だろうし、多分実家にいるのでは。 ん? 待てよ、そこはっきりさせたら 『俺イコール雑種のノラ犬、生まれ変わり説』 も消滅する筈なんじゃ! .

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