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第80話
「だっ、だからぁ、可愛くて興奮しちゃってわんわんを襲ってたんでしょー」
「チッ、盛りのついた猫――いや、馬鹿犬が。去勢すんぞ!」
「なるほどその方が良いかもしれませんね」
「皆様お待ち下さい。精巣を除去するヒトの去勢についてですが、残念ながら十歳頃までに行われなかった場合、特に実施が成人後ですと性欲の低下は全くみられないか、ほんのわずかだそうです。やるならもっと確実な手段を選ばないと」
「先輩……」
い、いやいやいや。なるほど、じゃないでしょ副会長さま。
隊長さんがやけに詳しいのは過去に一度でもやろうと思って調べてみたことがある、とか?
庶務さまは涙目になってないで皆を止めてください。
ひいいっ、あ、あかん。これはあかんヤツや。
思わず西の芸人さんみたいな台詞を吐く程、書記さまの身に危険を感じる。書記さま逃げてー!
はっ、無理か。後ろ手に縛られ、さらにぐるぐる巻き状態で床の上を必死にぐねぐね動いてはいるけれど。
うう、あんまり言いたくないのに。
「あの! 本当に違うと思います。書記さまのあれは多分ですけど、犬の…………マウンティング、みたいな感じっていうか」
「マウンティング?」
「それって、興奮した犬がよく飼い主の足に腰を押しつけてやるやつか?」
「少し待ってください。ああ、ここにありました。でもやはりそれは発情した時に行われるもので、去勢手術によりある程度抑えることが出来る、と書かれていますね」
「ある程度……確実性に欠けるな」
どこからともなく取り出した飼い犬マニュアルを読む副会長さま。
ぼそりと呟く、敬語じゃない隊長さん。だから怖いよ!?
くそう、やっぱり言うしかないのか。
「あのですね、マウンティングの意味はそれだけじゃなくて。確か群れの中の序列決めだったり、例えば兄弟犬同士のじゃれあいとか単純に甘えのしぐさだったりするらしくて」
「はあ? 俺にはベッドの上でワンコ書記がわんわんを組み敷いて、いやらしく腰をふりふりしてたようにしか見えませんでしたー。わんわんも止めてとか言いながら気持ち良さそうにアンアン鳴いてたしぃ」
「なっ?! なな、鳴いてないから!」
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