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第82話

という、隊長さんからの説明に皆なんとも言えない顔で書記さまを見下ろした。 「……そんな奴いねーだろ」 「だ、だよね。今までずっと毎日あれだけイチャついて、わんわんにチューしまくったり撫でくりまわしたり、今日だって実際襲ってたし!」 「そこが書記さまの恐ろしい、ある意味での才能なのです。知識は無くとも本能で動きやがりますから」 「つまり野性を発揮したワンコ書記が意味も分からずキスやマウンティングでわんわん君への求愛行動に出た、と? 尚更厄介じゃありませんか。これはもう、直ちに去勢するしかないですね」 「せ、先輩っ」 「きょせい、何?」 「あ、ははっ、えーと。俺、朝風呂入ろうかなー」 これ以上何を言っても駄目だこの人たち。知ってたけど。 恥ずかしいのを我慢して書記さまの無実(だよね?)を証言した、俺の勇気は一体……。 ああ、本当に朝から無駄に疲れた。 多分もう放っといても大丈夫な気がしてきたし。考えてみればいくら非常識な人たちとはいえ、実際格上の書記さまをどうこう出来ない筈。その気になれば書記さまも怪力で応戦するでしょ。うん、問題ない。 そんな軽い現実逃避(恥と混乱に包まれた部屋から出て行きたかっただけ)からの俺の言葉に、爆発しちゃいました。 何が、ってもちろん書記さまの野性が。 「わんわん、お風呂! 一緒に入る! 全部、洗ってあげる!」 「へ?」 嬉々としてそう宣言した書記さまの周りからブチブチッと縄が弾け飛ぶ。この光景、もう何度目かな。 ほぼ同時に神憑り的な素早さで俺を抱え上げ、そのままダッシュし、どこかの部屋の扉にカチリと鍵をかけた。……鍵? 「わんわん、楽しみ。頭も身体も、ちゃんと俺が綺麗に洗ってあげるね。すぐだから待ってて!」 「え? え?」 残念ながら俵のように肩に担がれた俺には、書記さまの背中しか見えません。その状態で分かるのは蛇口からドボドボお湯を出す音と、部屋の外にいるのだろう皆が叫んだり扉を叩く音。 ……もしかしてここはシャワールームでしょうか。 あ、あかーん! よく分からないけどこのままじゃアカン気がする。またしても謎の関西弁になってしまうほど何かが危険だっ。 慌ててじたばたする俺を叱るためか、書記さまが向かい合わせの形に抱え直す。 .

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