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月夜の呟き
最難関の王立アカデミーに入る為に10歳で旅立った幼馴染は、飛び級を重ねて上級文官になった。
数代おきに優れた人物が出る一族の子であったし、いずれは宰相まで上り詰めるだろうと、大人たちが噂をしていたのをリカルドは良く覚えている。
村出身者の中で一番の出世を果たした彼が自分の前にフラリと現れたのは、子連れで住める官舎の空きが無くて途方に暮れていた時…。
『アルフリート。
お前に伝えたい事が沢山あるのを気づいているか…?』
将来を嘱望されたにも関わらず、迷いもなく出された退職願い。
上役も考え直せと何度も引き留めた。
だが、決意は固く翻らなかった。
『あの時、家が見つからなくて困っていた俺達を快く迎え入れてくれた事に、どれだけ感謝しているか。
小さなアレクがひねくれもせずに成長してこれたのも、お前が母親代わりに甲斐甲斐しく世話をしてくれたからだ。
なのに俺は。
この穏やかな日々が壊れるのが怖くて遠回りしている俺を、お前はどう思う?
人々に安息をもたらす夕暮れと宵闇の瞳を見て、俺が心をざわつかせてしまっているなんて知ったら、軽蔑の眼差しを向けるか?
義弟のお前にこんな感情を抱いてると知って、それでも俺達の…、いや、俺の傍にいてくれるのか…?』
薄雲の向こうの月を見上げ、銀狼のリカルドは溜め息をこぼす。
瞼の裏に浮かぶのは、産後間もなく亡くなった妻ではなく、その弟のアルフリートになりつつある。
その罪深さに、もう一度溜め息をこぼした。
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