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忘却と……
犬には人間の言葉なんてわからない。だけど、きっとその場の雰囲気で感じるに違いない。いつもなら自分の傍にいる飼い主が突然、消えた時にそれは飼い犬でもわかることだ。
ひょっとしたらリンは悠真がいないことに気づいてるのかもしれない。窓の方をジッと見たきり、そこから動こうとはしなかった。そして哀しげな声で鼻を鳴らしてないている。
いつ帰ってくるかわからないご主人様を待ってる姿は何故だろうか見ていて胸に突き刺さる。リンは俺達と同じように、悲しみを感じているのかもしれない。近寄ると頭を優しく撫でた。そして、隣で話しかけた。
「リンお前も寂しいのか? そこにいても弟は、帰って来ないぞ。悠真は居ないんだよ…――」
そう言って話しかけると、リンは首をかしげてワンと吠えた。そして鼻をクーンと鳴らして再び元気が無さそうに床に伏せた。
「ああ、俺も寂しいよ……。あんな弟だけど可愛い所もある。お前も知ってるだろ? 悠真は本当にどこにいるんだろうな、俺も会いたいよ……」
リンの隣に寄り添うと首に抱きついて、ぎゅっと抱き締めた。そうしていると、少しだけ気持ちが落ち着いた。すると、リビングの扉がガチャリと開いた。母さんは辺りをキョロキョロと見渡すと俺の方を見てきた。
「あ……! 母さん、起きてきたの……?」
母がリビングに入ってくると俺は離れた場所から話しかけた。するといきなり、こっちに向かって来た。それこそ酷く慌てた様子だった。
「ゆう…ま……!?」
「母さん……?」
「ああ、悠真…――!」
「え……!?」
弟の名前を呼ぶといきなり抱き締めてきた。細い腕で抱き締められた温もりは、母親の『愛情』を感じた。それは俺自身を戸惑わせた。母さんは、弟の名前を呼ぶと、取り乱したように泣いて声を震わせた。
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