165 / 1000

遠くなるフタリ②

 拓海(タクミ)は久し振りにスポーツニュースを釘付けになって見た。 「智裕くん……髪の毛……。」  星野がかけてくれた電話の声を聞いて以来、拓海は全く智裕と接触出来なかった。家は隣なのに、すれ違うことすら無くなってしまった。  昨日たまたますれ違った智裕の母に尋ねると、智裕はあの日以来、朝5時に川沿いをランニングして、帰宅してからもすぐに外へ出て夜の8時ごろまで投球練習とランニングをしているという。 (あれからもう1週間も経ったのか……まだ1週間なのか……な…。)  テレビの向こう側で女子アナウンサーとにこやかに、少し緊張気味に笑う、その笑顔は、自分だけのものだったはず、と拓海はモヤモヤする。  拓海の心にドス黒いモヤのようなものがかかっていく。 「智裕くん……。」  あの坊主頭の「松田智裕」は拓海を優しく抱いてくれる智裕なのか、と、わからなくなってきた。  拓海が好きになった時には、茶髪が夕陽に光って見えて、とても綺麗だった。  会おうと思えば会えるはずだった。  2年5組の教室に自分から赴くことだって出来たはずだった。  なのに拓海の足は向かなかった。 「智裕くん、会いたいよ……。」  拓海が困るくらいほとんど毎日智裕は保健室に来ては拓海に熱い口づけをしてくれた。  帰宅してちょっとした隙に呼び出しては抱きしめてくれた。  つい先日も今は娘が寝ているベッドの上で愛された。  拓海にはそれが遠い昔のように感じていた。  拓海はテレビを消して、静かに涙を流した。  そして目を閉じると智裕の笑顔ばかりがうつる。

ともだちにシェアしよう!