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憧れのユイさん⑤

 智裕の柔軟が終わると、由比はまずシャドーピッチングを命じた。  ブンッ ブンッ  智裕はストレートを放るスピードで腕を振りかぶって降ろした。由比はそれを真剣に見つめた。 「よし、やめ。」 「はい!……はぁ、はぁ。」  智裕は緊張も伴って発汗量がとんでもないことになっていた。  今は練習用ユニフォームを脱いで上半身はノースリーブのアンダーシャツ1枚だけという格好だったので脇からの汗がダラダラと腕を伝う。失われた水分を特製スポーツドリンクで補っていた。 「智裕くん、ダメだね。」 「………はい。」 「自分でもわかってるみたいだね。腕頼りのピッチングになりつつある、それはわかるかい?」 「………えっと…それは…。」 「もっと下半身と体幹を使って、下半身と体幹と腕の3点の力をマッチングさせてそれを球に伝えるんだ。指先、腕だけじゃダメだ。」 「はい!」  由比の指導も熱が入り、智裕も夢中になっていた。  気がつけば2人の物理的な距離はどんどん縮まっていく。

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