44 / 167

第44話

 冷たい風を頬に感じる頃、花屋の店先はクリスマス一色のディスプレイに埋め尽くされていた。 「あれさあ、もっとカラーごとに分けて置いたらいいんじゃないのか?」 俺は、奥のショーケースに目をやると母親に言う。 「え、・・・そお?!」 シクラメンの鉢を抱えながら、俺の横に立って奥を眺める母親。 「そうねえ、千早、色彩感覚いいから任せるわ。適当に、売れるように並べておいてよ。」 そう言って、また鉢を並べに外へ行ってしまう。 「・・・売れるように、っていうのがなぁ・・・・・」 俺は言ってはみたものの、どういうのが売れるディスプレイなのかは分からない。 取り敢えず、クリスマスだからといって濃い色のごちゃごちゃした感じは止めておきたいと思った。 もう少しシンプルに、それでいて品のあるような・・・・・ 種類ごとに生けられているバケツの花を色ごとに入れ替えてみた。 香りの強いものは移らない様にまた別のバケツに分ける。 そうして、周りを淡い色合いの花で取り囲み、中心に向かってクリスマスカラーの色にしていく。 少し離れて見てみると、ショーケースの中は一枚の絵画の様な感じになった。 大きな花束の様な、ブーケの様な・・・・・ 我ながら、いい出来だと思って見惚れていたが、 「あんた、・・・・あれじゃあ値段がバラバラで・・・・・。お客さん、一本いくらか分かんないじゃないのよ。」 母親が、俺の横でポツリと言う。 「え?・・・・」 そうだった、同じ白系の花でも種類によっては全く値段が違うんだった・・・。 俺が仕切り直しをしようと思ってケースに手をかけたとき、 「あの、赤系で5千円ぐらいの花束にしてほしいんですけど・・・。」と、声がかかる。 振り向くと、OL風の女性がいて、母親に言っていた。 「・・・あ、そうですね。5千円ぐらいで、・・・何か入れたい花はありますか?」 「う~ん、バラぐらいしか分からなくて・・・何でもいいですよ、全体に赤でまとまれば。」 そのお姉さんの言葉が、俺のへこんだ気持ちを持ち上げてくれた。 母親は、俺が入れた赤系の花の中から何本かを選ぶと、それに綺麗なラッピングを施していった。 仕上げには、真紅と黒のレースのリボンを付けてゴージャスに。 とても5千円とは思えない花束に、お姉さんも嬉しそうだった。 「すごくステキ~。」と言ってくれて、母親も「ありがとうございました。」と礼を言う。 お客さんが帰った後で、俺がショーケースの前で待機していると、 「そのままでいいでしょ。・・・一本だけ買う人もいないしね!」と言った。 その後も、オレンジ系の花束やピンク系といった注文で、ケースの中から選んでいく人が増えて、俺の鼻も上向きになる。 やっぱり楽しいなと思った。 こうやって、自分がいいと思ったものに共感してもらえて、それを買って行ってくれる。 夕方になるまで店の手伝いをした俺に、 「ありがとうね。今日は結構売れたし、いつもはあげないけど、バイト代あげようかな。」 と、母親の嬉しい言葉。 - - -  いよいよ、凍るような冷たい風が鼻と頬を赤くする季節になってきた。 クリスマスが近づくと、普段店には出ていない天野さんも、顧客の人から声がかかって店に出ずっぱりになった。 これから、年末年始に向けてはすごく忙しいらしい。 俺は、この間の一件以来、外泊はしていなかった。 ただ、呼ばれればマンションに出向いて行き、事が終わればちゃんと後始末をして家に戻っていくという具合で。 男同士の行為に、すっかり味を占めた俺だったけど、天野さんに啼かれるぐらいにはなったらしく、くれぐれも他で遊ばない様にと釘を刺された。 心配しなくても、女遊びをする訳じゃ無いし、俺の相手をしてくれるのは天野さんしかいないのに・・・・・。 そんなに相手をしてくれる男がゴロゴロいたら怖いし・・・。 今日も店に行くと、ショーケースの花の水を変えたりラッピング用の包装紙を運んだりして、夕方まで手伝いをした。

ともだちにシェアしよう!