2 / 12
第2話 千載一遇のチャンス。
(姉が家を出る数時間前)
朝布団の中に居た俺は携帯の着信音で目が覚めた。
携帯の時計を見ると5時。。
チッ。
誰だよ。。
こんな朝早くから掛けてくる奴は。
携帯画面に目を落とすと[姉ちゃん。]と表示されていた。
『。。もしもし。姉ちゃん?今。。』
何時だと思ってんの?
言葉を続けようとしたら姉の声で遮られた。
「悪いんだけど、今日から此処に住んでちょうだい。」
。。ん?
この人。
今、何て言った?
『え?此処って。。あの人の家?』
つい、あの人の家と言ってしまった。
姉の旦那さんなんだから、お義兄さんと言うべきなのに、彼を呼ぶ時も匠さんと言ってしまう。
姉は俺の微妙な言葉のチョイスを気にも留めず、話を続けた。
「私、家を出るから、彼と朱里の事頼むわね。」
へっ?
この人。
先程から何を仰っているの?
『何で家を出るの?』
状況が掴めないまま、俺は無意識に尋ねた。
「分からない?アンタ意外と鈍いわね。」
いやいやいや。
姉ちゃんの脈略の無い話で全てを理解出来る人が居たら、お目に掛かりたいよ。
「私。好きな人がいるの。だから今日からその人と暮らす事にしたから、後は宜しくね。」
それだけ言うと通話が切れた。
千景は暫く間、携帯の画面を見つめていたが、姉に電話をかけ直す事はせず、自分の荷物をまとめ始めた。
姉に出て行かれ、残された2人の気持ちを想うと胸にチクリと痛みが走ったが、
自分に訪れた千載一遇のチャンスを逃す気は更々無かった。
千景は支度を終えると、新たな扉を開くべく、嬉々として自宅を後にした。。
ともだちにシェアしよう!