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第48話
「……見せられた?」
僕の奇妙な科白に、小山内先生の瞳が揺れ、困惑した表情を覗かせる。
「はい。……でも、その前に。ひとつ。……聞いても、いいですか」
ドクン、ドクン……
それまであった平常心が、簡単に崩れる。だけど、このまま崩れ落ちる訳にはいかない。
「黒川くんとは、……その、お付き合い、されてたんですか?」
「……」
不躾な質問をしてから、気付く。
現役の教師が、当時生徒だった彼との関係を、暴露する筈がない。
しかも、生徒に。
「……」
それでも、視線を逸らしちゃ駄目だ。
テーブルの下にある両手を、グッと握り締める。
「──いや。丸山が思ってるような関係は無かった」
「……」
「ただ……黒川に想いを寄せていたのは、確かだ」
「……」
真っ直ぐ僕に向けられる瞳。
真面目な表情ながら、気恥ずかしそうに瞬きをする小山内の頬が、仄かに赤く染まったように見える。
「あの頃は……人との繫がりが強かった分、今より周りの目が厳しくてな。生徒と一定の距離を保つのに精一杯だった。
黒川にだけ、特別扱いをする訳にはいかなかったんだよ。……だから、懐いてくる黒川の思いに、素直に答える事が出来なかった」
お冷やのグラスを掴み、グイと飲む。まるで、思いと一緒に飲み込むかのように。
「……」
二人は……親密な関係じゃ、なかった。
あくまで『教師と生徒』として接し、それ以上の事はなかった。
……お互い、想い合っていたのに。
それがかえって、悲劇を招いてしまった。
もし小山内先生に、もう少し踏み込む勇気があったら。
もし……二人のプラトニックな関係が、許される世の中だったなら。
もう少し違う結末を、迎えられていたかもしれないのに──
「先生は、黒川くんがどうしてこの村に戻ってきたと思いますか?
あんな……酷い目に遭って。世間からも白い目で見られて。今すぐにでもここを立ち去って、この村での出来事を忘れたいと思っていた筈なのに」
「……」
別に、先生が悪い訳じゃない。
でも、僕に二十年前の出来事を見せた理由がこれなら……少し位キツい事を言っても、いいよね。
先生をじっと見据えながら、テーブルの下にある両手を、再び強く握り締める。
「それは、──先生に会いたかったからです」
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