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Ⅰ 透明な歯車
レエン・コートを着た幽霊
「は?」
「出てくるんだよ。芥川龍之介の『歯車』の中に」
「彼は、軍服を着た幽霊なのだろうか?」
「答えかねます」
「君は真面目だね」
頬杖をついた首を傾いで、男は溜め息をついた。
「本当に渡しても宜しいのでしょうか」
いまだ険しく眉間を寄せる秘書官に、静かに微笑み返す。
「渡してくれ。いや、渡すべきだ」
彼はここに来るまでに人を撃っている。
袖に血痕がついていた。
「しかしっ。彼はナチスです」
「彼の正義を信じよう」
命のヴィザを、彼に
決断した男の名は、リトアニア外交官 杉原 千畝
「私には彼が、透明な歯車に見えたんだ……」
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