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酒は呑んでも呑まれるな

 二日酔いだ。  紛れもない、二日酔いである。  なぜひとは、二日酔いになるとわかっていても、ついつい酒を過ごしてしまうのか……。  恐らくそれは、永遠の命題であろう。  今日が休日で良かった。  しかし俺は、もう二度と。  もう二度と、理性を失うまでの深酒はすまいとこころに誓った。    昨日の警察官とのあれこれは、しっかりと覚えている。  あのことを思い出すだけで、体の深くに熾火のように残った快楽が疼く、けれど。  恐らく今後、彼と会うことなどないだろう。  忘れた方がいい。  俺は自分にそう言い聞かせた。  その日の晩。  壁の薄いマンションの、隣の部屋から、また男の喘ぎ声が聞こえてきた。  俺はイライラとそれを聞き……そして、堪えがたい体の疼きを覚えた。  俺の体は、男の悦さをもう知ってしまっている。  強制的に昨晩の記憶が掘り起こされて……。  だから余計に、この喘ぎ声が耐えがたい。  俺は意を決して、隣に苦情を言いに行くことにした。  酒に逃げることができない以上、この疼きから逃げるための手段は、もはや直接交渉しかなかったのである。  俺は隣の部屋の前に立ち、インターホンを鳴らした。  そして、続けてドアをドンドンと叩く。  足音が、玄関に近付いて来る気配がした。  中の人物に、思い切り苦情を言ってやる。  そう、こころに決めて。  俺は、ドアが開くのを待った。  ガチャ、と鍵を開ける音がして。  ゆっくりと、ドアが開く。  そこに、立っていたのは……。  昨日の、警察官だった。  あの真夜中の路地裏の熱気が。  もわり、と。  俺の体を包んだ気が、した……。      END

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