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前代未聞
【上のものが支配し
下のものはそれに従う
何をしようと、どうあがこうと
それは変わらない
何も変わりはしないのだ】
新しい制服に身を包み込み
少しの緊張と興奮をない混ぜにした様な
雰囲気が辺りを包みながら、入学式は始まった。
順調に始まっていたのだが
アクシデントというよりは、前代未聞の事態が一つ。
『本校の宮路校長は諸事情のために不在です。代わりに、本校の職員の黒河が挨拶に当たらせていただきます』
マイク越しに伝えられた
その内容は、辺りをざわつかせる
だが、それ以上に
「宮路校長の代わりに、務めさせて頂きます。黒河理人です。どうぞ宜しく」
ニッコリという効果音が馴染む
そんな笑顔をしたかと思うと
辺りは静まり返る。
その青年の笑顔に見惚れた保護者の親たちもいるようだが、それ以上に
その名は言わずと知れた名だった。
日本屈指の財閥の一つ
黒河財閥の息子
しかも、やり手と有名なその人だった。
保護者の方からも少しばかり
張り詰めたような空気が
伝わってくる。
けれど、そんな周囲の状況を
その人は気にも留めないのか
悠々と話を進めていくと
“長い話は、若者にはつらいからね”と
粗方重要なことは話したのか
颯爽と階段を降りていき
その後は、何事もなかったかのように
入学式は進んでいき、幕をとじた。
※
「あぁ〜、疲れたぁ。もう無理。」
入学式が無事終了して
控室のパイプ椅子に大きな音をたてて
座りこんだのは生徒会会計、美波京。
日本人離れしたその金髪。
だが、それでいて不自然ではない美しいと形容するのが相応しい金髪の髪色は誰もが羨むようなものでそれは、きらきらと眩しいほどであった。
美波は、ため息を吐き出し
ネクタイを緩めると
大袈裟にお疲れムードを漂わせていた。
「先生方もまだ近くにいるんだ。ちゃんとしてろ」
控室に入るなり、だらしなくネクタイを緩めた美波に呆れたように視線を送りながら
生徒会会長の唯賀駿はその清潔感溢れる制服のネクタイをきゅっと締め直す。
「そうですよ。会長の言うとおりにしてください、会計の美波くん」
副会長の都筑悠介は
ストレートの髪を揺らしながら
腰に手を当て、唯賀の意見に同意する。
多芸多才と言われる通り、その佇まいは洗練されたとしか言いようがなかった。
「副会長、今の絶対に嫌味じゃん!外に聞こえるように言ったよねぇ?!」
「さて、なんの事でしょう?とゆうか、美波くんは誰かを気にするような珠でしたっけ?」
「いるじゃんかぁ、一人面倒な奴が。それにしても、二人共真面目すぎんじゃないの〜。何で生徒会が入学式に呼び出されなきゃいけないわけ。てゆうか、他の役員はどこ?!」
「あぁ、それなら。『美波にまかせろ』って言っていましたので。今日はお休みです」
「あいつら。」
壁によりかかりながら
にっこりと都筑が美波を諭すように
いうが、それは逆効果だったらしく
美波はプルプルと拳を握った。
「まぁでも、悪いことはないだろ。目的も果たせる訳だし。無理強いはするなよ、お前は惚れっぽくて困る」
唯賀は
簡易な机を挟んで
美波の前のパイプ椅子を引きながら
面倒はおこすなよ、というような
視線を送る。
「別にいいじゃん?でも、それで助かってるわけだし?まぁ、惚れっぽくても俺は恋人には優しくするからね。そこんとこは安心してよ、会長。」
その会話を中断させる
ノックの音を聞き
3人が振り向けば
黒河が扉によしかかっていた
「生徒会がそんな下世話な話してていいのか?」
「黒河先生」
一番、最初に振り向いた
都筑は黒河の存在に気づき
声をあげる。
「ほぅら、面倒なのがきたじゃん。」
「おいおい。だから、先生はやめろって。俺の性には合わないんだ。」
「じゃあ、黒河おじさんで。」
「美波は、そんなに単位を落としたいのか。
さっきの陰口聞こえてたんだが………。
今年は、留年かな。」
「ははっ。………っじょうだんに決まってんじゃん〜。」
「まぁ、冗談は程々にして、今年は随分大物揃いらしいな。」
「新入生のことですか」
「ピンポーン、正解!生徒会長流石だね」
「馬鹿にしてるんですか」
「大物揃いと言っても、それは親が、ですし。ここのルールには従って貰わなければいけませんが、耐えられますかね?今年は」
「逃げ出す奴がいないと良いけどね〜。特に、大手の財閥の子息様とかね?」
浮足立つ新入生たちは
まだ、誰も知らない
ここは学歴も後ろ盾も通用しない
勝ち残った者だけが勝者となり
残りは、ただの敗者と化す
弱肉強食のその言葉通りの環境である
ことに。
「さてと、今年は誰が生き残ってくるかな。」
厭に楽しげな笑みを浮かべる黒河に
生徒会の面々はそれぞれに面倒そうな溜息をつくのだった。
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