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「代償」7
泰明のお蔭で寝坊は免れ、母の罵倒も受けずに済んだ僕は少し早めに家を出た。徒歩二十分ほどの距離にある、通学している男子校へと向かう。
時間に余裕を持って教室に入ると、泰明は既に席に座っていてスマホを弄っていた。泰明と簡単な挨拶を交わし、昨日のお礼を言うと僕も席に着く。
私立の男子校ということもあって、冷房完備というなんとも有り難い環境だ。涼しい風が頬を撫で、全身の汗を乾かしていく。
外の茹だるような暑さから開放された僕は安堵の息を吐き出しつつ、スクールバッグを机の脇にかける。持ってきていたボディーペーパーでベタついた首や腕の汗を拭っていくと、冷房の心地よい風も相まって、肌がスースーとして気持ちが良い。
「お前さ……最近家で変わったことないか?」
隣から唐突にそんな事を聞かれ、僕は顔だけ泰明に向けて「別にないけど、何で?」と問いかける。
「いや……ないなら良いんだ」
なんとも歯切れ悪く言葉を返し、視線を逸らす泰明に僕は首を傾げる。
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